『ねぇ行人、南の森に行って梨を穫ってきて』

珍しくすずに頼みごとされた事と、1人でお遣いに出されたことを
少し疑問に思いながらも、食べ頃の梨が穫れたことに僕は上機嫌で
すずの待つ我が家へと帰った。

「ただいま〜」
「いらっしゃいませ」

「……はぁっ?」

意気揚々と戸を開けると板の間には、三つ指をついて僕の迎えるすずの姿が……。

「……何をやっての、すず」
「先にお代をお願いします」

「お代?……お代って、お金のこと?」
「ハイ、お代はその梨で結構です」

「あぁ、そうですか……それじゃ、これでお願いします」

妙に他人行儀と言うか、お淑やかな仕草のすずに
梨を渡すと家の中へと案内される……何だろ、お店屋さんごっこ?

「まだ夕方なのに、何で寝間着なんか着てんの?」
「えっ?だって、ちかげちゃんが寝間着が良いって……」

「ちょっと待った!……すずは何をしようとしてるの?」

「えっとね、売春?」
「すず、とりあえず話をしようか」

「ほにゃ?」

どうやら話を聞くと、またちかげさんに誑かされたらしい。
何で鵜呑みにする、すずの純粋さも考え物だ……。

「だってね、島の外じゃ何でもお金で買うんでしょ?」
「確かにそうだけど……」

「行人が私を買ってくれたら、ずっ〜と一緒に居られるって
ちかげちゃんが言ってたもん」

「本当に困った人だ、ちかげさんは……
とにかく僕は、すずを買ったりしないから」

「……ぐすん……行人は私と一緒じゃ嫌なの?」

「そんなことない!!!……すずと一緒が嫌とかじゃ無いんだ……」

「じゃあ…………私を買って?」

涙目で訴えるすずの姿にドキッとしたが、やっぱりこんなのは……。

「梨3つで足りますか?」
「うん、足りるよ」

こうやって僕の藍蘭島永住が決定しました。