少女はふと気が付いた。ひょっとして自分は他の娘たちと比べて、微妙に違う反応をされているのではないのかと。
 思い返せば、皆に対してはやたらに狼狽えて――原因は不明であるが――鼻血を噴いたりしているのに、少女だけの時にはそんな素振りは微塵も無い様であった。
「むぅ〜……。一体、どうなってるのよ?」
 ショートヘアーを両側で結んだ頭を傾げ、疑問と不満を少女が言葉にして紡いだ。
確かに、少女は仲間の娘たちと比べて幼く、相応に背丈やら何やらが足りてはいない。
 しかし……、否。だからこそ、少女は誰よりも女である事を目指していた。
 そう、藍蘭島一の大人な女である"れでぃ"になる事を。
 一方で、少女は焦りも覚えていた。
 最初は――本人たちに自覚は無いが――強引とも言える程に積極的であった皆の態度が、最近では臆病とも取れる消極的なものになっていた。
 普通ならば戦意喪失と、諸手を上げて喜ぶべき事態であったが、何故であろうか。女の勘とでも言うべき直感が、少女に危機感を抱かせていた。
 島で唯一の男である少年を婿に迎える事は、島中の娘たちの悲願である。
 それは少女にも理解出来る事であった。
 何故、少年に親しい筈の娘たちの中に距離を置き始める者が現れたのか。いくら考えても答えは出てこない。
「でも、これって"ちゃんす"だよね?皆が遠慮してるのなら、私が行人を"れでぃ"の魅力でメロメロにしちゃうんだから」
 行人を婿にすれば、もう誰も自分を子供扱いなどしないであろう。そして何より、そんな態度を取っている行人を見返す事も出来る。
「ふふふ。みてなさい、行人」
 ゆきのの野望が今、動き出したのであった。

「えへへへ〜。行人をお婿さんにしたら、毎日遊んで貰おっと」
 くまくまの頭の上で、ゆきのは得意そうに呟いた。
"ねぇ、ゆきゆき。お婿さんにするって、どういう意味かちゃんと解ってるの?"
「え、知ってるよ?結婚して、ウチに来る男の人の事でしょ?」
 あっけらかんと答えたゆきのに、くまくまが呆れた溜息は吐いた。
"そうじゃなくて、いくいくをお婿さんにするのならゆきゆきはいくいくの事が好きなの?って意味"
「それなら良いじゃない。だって、私行人の事好きだもん」
"いや。だから、そう言う意味じゃなくて……"
「?」
 怪訝そうな表情を浮かべてくるゆきのに、くまくまが肩を竦めた。
「何よ〜?要は私が行人を"ゆーわく"して、それでお婿さんにしちゃえば問題無いじゃない」
 何処か暗澹とした色のくまくまに、ゆきのが抗議の声を上げた。
「大丈夫だってば。その為に今日は色々と考えてきたんだし。それでね、私の溢れるこの大人の魅力で行人を虜にしちゃうんだから。あ、ホラくまくま。行人が居たよ」
 ゆきのの指差した先には、森の入り口で大きな籠を背負った行人が立っていた。
「やっほ〜。行人」
「遅いよ、ゆきの。今日は森でいっぱい果物を採るから早く出るって昨日言ってたじゃないか。もう朝はとっくに過ぎちゃったよ?」
「もう、そこは『ううん、今来たところ』って言わなきゃ。それに、"れでぃ"には色々と時間が掛かるものなの」
 理不尽なゆきのの物言いに早くも疲れた表情を浮かべた行人であったが、そんな行人の肩をくまくまが軽く突付く。
"ごめんね、いくいく。今日の事、ゆきゆきは凄く楽しみにしてたから昨日は中々寝付けなかったみたいなの。それで少し寝坊しちゃって……"
「何だ、そうだったのか。ゆきの、そんなにはしゃがなくても良いのに」
「ち、ちょっとくまくま!!余計な事言わないの!!あ、あと行人も、私そんなに浮かれてなんかなかったんだからね!?」
 一転して破顔した行人に、ゆきのが声を荒らげた。
 しかし、「はいはい、解ったから。早く森に入ろう?遅れた分、頑張らないといけないからね」と、やけに柔和な態度で行人は歩を進めた。
 そんな行人の態度に、ゆきのの対抗心に火が灯る。
 これこそが、皆がゆきのを"れでぃ"として認めていない証拠であり、子供扱いなのだ。
 いつもなら躍起になって反論する所だが、ゆきのは喉元まで出掛かったそれを何とか飲み込んだ。
(ふふん。そんな態度でいられるのも、今の内なんだから)
 先を行く行人の後姿を半眼で眺めながら、ゆきのは口の端から八重歯を覗かせるのであった。

「へぇ、この辺は結構生ってるんだね」
「でしょ〜?」
"この前、偶然見つけたの"
 巨大な果物をもぎながら、二人と一頭がそれぞれの仕事をこなしていた。
「くまくま〜。次はこの木をお願い」
"これね?それじゃあ、ゆきゆきは下がってて。あと、いくいくも"
「うん」
「確かに、これじゃバスケット・ボールよりも重たそうだもんなぁ……」
 見上げた先の葡萄の実を眺めながら、行人はぎこちない笑みを浮かべていた。人の頭ほどもある葡萄の実は、ともすれば水の入ったバケツの如く重い。皮は硬くなくても、重さだけで十分に脅威であろう。
 そしてそんな上を眺めている行人を尻目に、ゆきのはくまくまに目配せをした。
(くまくま、それじゃあお願いするね。)
(この木にくっ付いてる蜂の巣を落とせば良いのね?)
 くまくまの質問に、ゆきのがしっかりと頷いた。
 そう、それが今回のゆきのの作戦なのであった。
 蜂の巣を故意に落とし、出てきた蜂から行人の手を引いて森の中に逃げ、そして二人っきりになる。そして、表向きは遭難と言う事にして、ゆきのが行人をリードし、無事に村へ生還すると言うものであった。
 勿論、たかたかやいぬいぬなど他の動物たちの協力でいざとなれば何とか出来るようにしてある。
(これで私が頼れる大人な所を見せれば、きっと行人は私にメロメロよ)
 と、ゆきのが自分に傅(かしず)く行人を想像していると――、
「ゆきの、危ないっ!!」
「……え?」
 切羽詰まった行人の声を聞いたと思った瞬間。葡萄の実とは違う、黄土色をしたボールの様な物体がゆきのの顔面を直撃した。
「きゃっ!?な、何よコレ!?」
 ぶつかった拍子に、裂けた物体からベタベタとした粘液がゆきのの視界を奪った。
 それが口の中に入った瞬間、その甘味にゆきのは自分に落ちてきたものの正体を悟った。
「ゆきの、蜂の巣が落ちたんだよ!!早く逃げなきゃ!!」
"わ、わ、わ……!!ゆきの〜っ!!"
「う、う〜っ!!見えないよぅ!!蜂蜜が目に入っちゃったよぅ!!」
 真っ黒な視界に加えて、周囲に群れ出した蜂の唸る様な羽音にゆきのは恐怖で腰を抜かせてしまっていた。
 パニックに陥った所為か、無謀にもその場に座り込んでしまう。
「くまくま、川ってこの近くにある!?」
"えぇっと、あっちにある筈だよ"
 そんな行人とくまくまの会話が聞こえたと思うと、突如ゆきのは背中と膝の下に腕を通されて抱え上げられた。
「きゃっ!?な、何!?」
「兎に角、今は逃げるよ!!」
 近くで聞こえる行人の声に、ゆきのは全てを任せてしがみ付いた。
「走るから、舌噛まないようにね!!」
 言うや、行人はゆきのを抱えた儘、森の中を走り出した。
 時折、枝葉がゆきのを掠めるが、背後から迫ってくる蜂の追っ手の気配を感じればそれこそ些細な事にさえ思えた。
 今、しがみ付いているのは行人の首であろうか。ゆきのはそんな想像を膨らませた。
 女の子よりもずっと太くて、そして抱かれた胸は硬くて大きく、そして背中と膝を支える腕は力強い。
「大丈夫、ボクが何とかするから……!!」
 その声に、ゆきのは不意に胸の高鳴りを覚えた。
 安心してしまいそうで、同時にひどく心が揺れる。
 だからゆきのは、
「……うん」
 行人の腕の中で、小さくなってそう頷く事しか出来なかった。
「あっ!!川だ!!」
 藪を抜け、川原の砂利を踏み鳴らす音が響く。
「この儘川に飛び込むから、息を吸い込んで!!」
 迫る流水音に合わせ、ゆきのは大きく息を吸い込んだ。
「すぅ――」
 行人の息音が聞こえた直後、ゆきのは刹那の間だけ宙に浮き上がった。
(行人、行人……)
 川に流されながら、ゆきのは何度も行人の名前を反芻し続けていた。

「で、今日から行人ちゃんのお世話をするって事になったワケなのね?」
「……うん」
 荷物を纏めながら、未だに布団の中にいる背後の母親の言葉にゆきのは頷いた。
 行人の咄嗟の機転で大事には至らなかったが、全てが無事と言うわけではなかった。
 座り込んでしまったゆきのに集っていた蜂を振り払った拍子に行人は両腕を刺され、更には川から這い上がる際、腕を庇った所為でバランスを崩して川に落ちて右足首を挫いてしまっていた。
 直ぐに上空で待機していたたかたかにオババの元へ運ばせたものの、行人の状況は腕の腫れと捻挫が治るまでは満足に動けないと言い渡される始末であった。
 ゆきのは泣きながら行人に謝り、そして完治するまで自分が世話をすると買って出たのだった。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに?ゆきの」
「えっと……、その……」
 歯切れの悪いゆきのの態度であったが、かがみはその先を片目を瞑りながら静かに待った。
「い、行人に"れでぃ"って思われるには、どうしたら良いのかな……?」
 そう呟いて、ゆきのは肩を落として項垂れた。
 行人に怪我をさせてしまった自分が、今こんな事を考える事自体不謹慎であると思ったが、それでもゆきのは思わずにはいられなくなってしまっていた。
『良かった。ゆきのは怪我してないんだね?』
 川原でそう言って頭を撫でてくれた行人の行為が、自分を"れでぃ"としてではなく、守るべき年少者としか見ていないのだとゆきのは解ってしまったのだ。
 自分は悪い子だと思う。欲張りな子だとも思う。
 それでも、昨日からゆきのは行人に対して胸に渦巻く悔しさを抑えられなくなっていた。
 行人が自分を"れでぃ"として見ていない事に、ゆきのは自身でも訳の解らない不公平感を覚えてしまっていた。
 そして、それが今まで抱いてきた悔しさとは少し違うと言う事も、何となくゆきのは感じ取っていた。
「そうね〜。今まで行人ちゃんに意識されてなかったのは、アンタが行人ちゃんを男として意識してなかったからじゃない?」
「え?行人は男だって、私知ってるよ?」
「知ってるだけじゃダメなのは、ゆきのが身を以って解ってるんじゃないかしら?」
「う……」
 その言葉に、ゆきのが口篭る。
「で、でも。意識するって言われても、どうやってすれば良いのか分かんないもん……」
 娘の必死な叫びであったが、かがみは呆れた表情で溜息を吐いた。
「だ・か・ら、『今まで』って言ったじゃない」
「?」
 尚も意図を掴めていないゆきのに、かがみは苦笑しながら項を掻き上げた。
「大丈夫よ、ゆきの。今のアンタなら、行人ちゃんも意識してくれるかもしんないわ」
「え?それって……?」
 男の子を、行人を意識すると言う未知の感覚が遂に自分にも解るのかもしれないと思うと、ゆきのの心臓は期待で高鳴りだした。
 何より、行人が自分を"れでぃ"として見てくれるその可能性にゆきのは無意識に握り拳すら作っていた。
「後は自分で行人ちゃんに会って男の子を意識するって事を実感してきなさい。アンタの言う"れでぃ"って言うのは、そこから始まるんじゃないのかしら?」
「う、うん。それじゃ、行ってくるね。お母さん」
 荷物を背負い、ゆきのは家を飛び出した。
「やっぱり、女の子は恋をしてこそよね〜。あ〜あ、私もお祖母ちゃんになる日が来るのかしらね〜?」
 小さくなった娘の後ろ姿を見送りながら、かがみは楽しげに呟いた。
「頑張って行人ちゃんをモノにしてきなさいよ?ゆきの……」
 暫くして、布団から寝息が立ち始めた。

「それじゃ、行人。私、仕事に行ってくるけど本当に一人で大丈夫?」
「大丈夫だよ、すず。ご飯もトイレも全然出来ないってワケでも無いから」
 心配そうに振り返るすずに、行人は努めて元気に振舞った。
「でも、腕や足なんか包帯でグルグル巻きだよ?昨日は蜂に刺されて熱も出てたし……」
「うん。まぁ、昨日は色々と大変だったけど、今日は大分落ち着いたよ。この包帯とかも見た目程酷くもないし。だから、すずもそんな顔しないで。……ふぁ」
 蜂の毒と捻挫の炎症からくる熱で一晩中魘されていた行人であったが、それも朝方には何とか回復して今の状態に落ち着いていた。尤も、お陰で碌に眠れずに行人の目の下には隈が出来ていたりしていた。
「あはは、行人眠そうだね」
「ごめんね、すず。ボクがこんな体なばっかりに……」
「もう、それは言わない約束だよ?行人」
 そんな遣り取りをして、行人とすずが同時に噴き出した。
「でも、本当に具合は悪くないから。それに、今日はゆきのが来てくれるって言ってたし」
 そう行人が言うや、玄関の戸が叩かれた。
「行人〜、すず姉ぇ〜。居る〜?」
「あ、ゆきのちゃん。お早う」
 すずが戸を開けると、そこには荷物を背負い、息を切らせているゆきのの姿あった。
「うん、お早うすず姉ぇ」
 挨拶を交わすと、ゆきのはすずの後ろの居間で寝ている行人と目が合った。
「お早う、ゆきの」
「お、お早う。行人……」
 それだけで、ゆきのは自分が真っ赤になっている事が判る程に頬が熱くなった。
「アレ?ゆきのちゃん、顔が赤いけどどうかしたの?」
 覗き込んできたすずに、ゆきのの心臓が跳ね上がった。
「な、何でも無いよ、すず姉ぇ!!ちょっと急いで来たから、きっとその所為だよ!!」
「そう?なら良いけど。それじゃ、ゆきのちゃん、行人のお世話お願いね。私はこれから仕事に行ってくるから」
「ま、任せといてよ、すず姉ぇ。行人の事は、全部私が面倒見るんだから」
 小さな胸を叩いてゆきのは言い切り、そんなゆきのにすずは「うん」と柔らかく微笑んだ。
「い、いってらっしゃい。すず姉ぇ」
「気を付けてね、すず」
「うん、夕方には帰って来れると思うから」
 そう言い残し、すずは家を後にした。
 見送った儘で閉まった戸を眺めていたゆきのの背中に、じんわりと汗が滲んできた。
「それじゃ、すず姉ぇにも頼まれちゃったし。今日は私が行人の世話をしてあげるんだからね」
 荷物を降ろし、平静を取り繕って振り返り、そしてゆきのは思わずその口を噤んだ。
「すぅ、すぅ……」
 行人が、布団の上で寝息を立てていた。
 土間から上がり、ゆきのはそっと行人の寝顔を覗き込んでみた。
 今は幼くすら見える無防備な寝顔を晒しているのに、いざとなれば身を挺する勇気と知恵を出して何とかしてくれる行人。
 そして、そんな行人に助けられたかと思うと、ゆきのは嬉しくてじっとしていられなくなりそうになった。
 森の中で蜂から逃げる為に抱えてくれた時や、流されている間、溺れてしまわないに様に支えてくれた時の行人の腕の感触を今でもゆきのははっきりと覚えていた。
「あ……」
 だが、布団の端から零れた行人の包帯の巻かれた腕を見て、ゆきのの浮かれていた気持ちが霧散してしまう。
 無傷で済んだ自分と引き換えに、行人は今こうやって寝込んでしまった。
 蜂の巣を落とす計画を立てた自分が上の空であった所為で行人を酷い目に遭わせてしまった事が、ゆきのに罪悪感を募らせていた。
「ごめんね、行人。私なんかの所為でこんなに怪我させちゃって……」
 体が冷えない様に、ゆきのは行人の毛布を掛け直した。或いはその怪我を見ないように隠したのか。
 それはゆきのにも判らなかった。

「〜♪」
 芳しい香りと、規則正しく俎板を叩く音。
 そして、聞こえてくる調子外れの鼻歌が何処か可笑しくて、行人は誘われるように目を醒ました。
 身を起こして見てみれば、土間の台所で炊事をしているゆきのの後ろ姿があった。
「えっと、ここで隠し味にお母さんが言ってた茸の下ろし汁を入れて、っと……」
 メモを見ながら、手際良く食材を捌いては調理していくゆきの。その淀みの無い動きに、行人はつい感心した眼差しを向けていた。そんな視線を感じたのか、振り返ったゆきのと目が合った。
「あ、行人。起きちゃったの?」
「うん、何か美味しそうな匂いがしてきたからね。何を作ってるの?」
「お母さんから行人を元気にするお料理って言うのを教えて貰ったから、その特製の茸雑炊を作ってるの。まぁ、私としてはもう少し甘い味付けの方が好みなんだけどね」
 若干不服そうな表情で、ゆきのはそう漏らした。
「ぼ、ボクとしてはかがみさんから教わった通りに作ってくれると嬉しいかな……?」
 以前のゆきのの料理の出来を思い出し、行人は引き攣った笑みで応えた。
「後は煮立ったら完成ね」
 鍋に蓋をし、居間に上がったゆきのは行人の寝ている布団の隣に膝立ちになって覗き込んできた。
「行人、何処か痛い所とかは無い?具合は?」
 身を乗り出してくるゆきのに、行人は軽く微笑んでゆきのの頭に手を載せた。
「大丈夫だってば。歩くくらいなら一人で何とかなるし、手だってもう痛くないよ。まぁ、こんなに包帯が巻かれてたらそう思っちゃうのも仕方無いかもね」
 「有難う、ゆきの」と付け加えて、行人はゆきのの髪に優しく指を通した。
 その感触が心地良くて、ゆきのは思わず目を細めた。頭の天辺から感じる行人の手が大きくて、温かくて、そしてふわふわとした幸せな気持ちにさせられてしまう。ふにゃりと、ゆきのの表情が蕩けた。
「はっ!?も、もう、"れでぃ"を子供扱いしないでよね!!」
 頭を振って、顔を真っ赤にしたゆきのは行人の手を払い落とした。
「そ、それより、行人。体拭いてあげよっか?昨日は色々あって、お風呂に入れてなかったでしょ?」
「うん。まぁ、昨日はオババから塗り薬が落ちない様にと、捻挫が悪化しない様にも言われて入れなかったかな」
 寝汗で気持ち悪そうに身を捩る行人の態度に、ゆきのが得意そうにして荷物から手拭いを取り出した。
「でしょ?だから、ゆきのが綺麗にしてあげるね」
 風呂場から湯を張った桶を持って来たゆきのが、湯に浸して適度に絞った手拭いを持って構える。
「ホラ、行人。服を脱いで」
「う〜ん……。それじゃ、頼もうかな?」
 シャツを脱いで現れた行人の半裸に、ゆきのの心臓が高鳴った。
 女の子とは違う、所々が盛り上がった不思議な肉付きの体。ゴツゴツして硬い筈なのに、抱き締められたゆきのには少しも悪い気分にはならなかった。
 以前にもくまくまを探した時や海水浴をした時にも見ている筈なのに、ゆきのはもう男の子の体としてしか見られなくなっていた。
「――っくしゅ!!えっと、ゆきの?」
 行人のくしゃみに、ゆきのは我に返った。
「あ。ご、ごめん、行人。そ、それじゃ、拭いたげるね」
「……う、うん?」
 背を向けた行人に、ゆきのが手拭いを押し当てた。
「どう、行人?気持ち良い?」
「うん。結構汗掻いてたから、こうやって綺麗にされるとすっきりするかな?」
 清められていく爽快感に、行人は大きく息を吐いた。そんな行人に、ゆきのもつい笑みを零してしまう。
「行人の体って、やっぱり変だね。でこぼこしてるよ」
「そりゃあ、ボクは男だもん。まぁ、ここに来てから本格的に鍛えられたから、その所為もあるけどね」
 背中から聞こえてきたゆきのの言葉に、行人は思わず噴き出した。
「もう、何が可笑しいのよ?行人」
「ごめん、ごめん。何か、向こうじゃ当たり前なんだけど、ここじゃボクみたいな男でも珍しくなるんだなって思ってさ」
「……みたいななんかじゃないのに」
「え?何、ゆきの?」
「ううん、何でも無いよ!!行人」
 振り返った行人に、ゆきのが慌てて首を振った。そして誤魔化すように、再び行人の背中を拭き始めた。
 どうしてか、ゆきのは呟きが行人に聞かれては拙い気がした。胸の鼓動も、更に大きく高鳴ってしまう。
「えっと、ゆきの」
「……な、何?行人」
 土間を向いた儘の行人が声を掛けてきたが、ゆきのは顔を上げないようにして返事をした。自分でも判るくらいに紅潮した今の顔を、行人に見られるのが恥ずかしかった。
「お鍋、噴き零れてない?」
「えぇっ!?」

見れば、行人の視線の先では火に掛けられていた鍋が盛大に泡を噴いていた。
「ちょっと、何でもっと早く教えてくれなかったのよ!!行人!!」
「いや、さっき吹き零れ始めたみたいだったから……」
 土間へ跳び降りると、ゆきのが鍋の蓋を外した。
「熱っ!?」
「ゆきのっ!?」
 熱せられていた蓋で火傷をしたゆきのに、行人が居間から降りてきた。
「こ、これくらい平気よ。行人は怪我人なんだから、お布団で寝ててよ」
「そんなわけないだろ!?直ぐに冷やさないと!!」
 片足で跳ねながらゆきのに詰め寄ると、行人は水瓶から桶に水を汲んでそこにゆきのの手を取って突っ込ませた。
「目の前でゆきのが怪我してるのに、のんびり寝てるなんて出来ないよ」
「行人……」
 難しい表情と強い口調の行人でも、その心配してくれている様子にゆきのは嬉しさを感じてしまう。
 ひりつく指先よりも、行人に握られている所の方が熱い気がした。
「もう大丈夫だから、行人は休んでて。汚れた台所の掃除とかしなきゃならないから」
「ううん、ボクも手伝うよ。ゆきのだって手、怪我してるでしょ?」
「う……。でも、これじゃ私が行人のお世話をしに来た意味が無いじゃない」
「まぁ、細かい事は言いっこ無し。二人でやった方が効率が良いって」
 不服そうなゆきのに、愛想の良い行人がそんな提案を持ち掛けてきた。やがて折れたのか、行人を見上げながらゆきのは溜息を吐いた。
「じゃあ、せめて行人は着替えて来てよ。そんな格好じゃ、風邪引いちゃうよ?」
「ははは。そんな、これくらいで風邪なんて――、っくしょいっ!!」
「……」
「はい、着替えて来ます……」
 ゆきのの視線から逃げるように、上半身裸の儘であった行人は居間に上がって着替えを始めた。そんな行人を尻目に、ゆきのが袖を捲り上げる。
「さってと、今の内にやんなくちゃ」
「あ……」
 行人が着替えを済ませている間に、ゆきのは早々と掃除を済ませた。
「へへ〜ん。このくらいお茶の子さいさいなんだからね?」
 八重歯を覗かせて笑うゆきのに、行人も降参の身振りで応じるしかなかった。
 そして火が燻る竃に掛けられた鍋の前に立つと、ゆきのは湯気の立っている鍋を見下ろした。
「でも、もうこの茸雑炊食べられないのかなぁ?別に焦げてるってワケじゃなさそうだし……」
 中身を見ながら、ゆきのが小皿に取って鍋の味見を試みた。
「うん。水が飛んじゃって味が濃いけど、これならまだ――あれ?」
「ゆきの?」
 糸が切れた繰り人形の様に、ゆきのがその場に崩れた。
「ゆきのっ!?どうかしたのっ!?」
 慌てて土間に降りて来た行人がゆきのを抱き抱えた。
「い、いくと……?」
「うん、ボクだよ。どうかしたの、ゆきの?」
 雑炊を一口食べた瞬間から、ゆきのは自分の体が燃えるような感覚に襲われてしまっていた。
 目の前には、ゆきのを案じて覗き込んでくる行人の顔があった。その光景に、ゆきのの世界が行人で埋め尽くされる。
 背中に回された腕の感触が、顔に掛かる吐息が、そして、鼻腔に感じる行人の匂いがゆきのの理性を焼いた。
「ぃじょぅぶ?ゅきの?しっかり――!!」
 行人の言葉が、何処か遠くから聞こえてくるようだった。
 意識に霞が掛かっていくのに、五感は強烈に鋭敏になっていく。
 体が、行人を認識し始める。
「ゆきの!!しっかりして!!」
 必死に呼び掛けてきた行人に、ゆきのの意識が正気に戻った。
「いく、と……?」
「良かった。気が付いたんだね、ゆきの」
 焦点の合ったゆきのの表情に、行人が安堵の表情を浮かべた。
 その優しさが、ぶつりとゆきのの中で最後の何かを断ち切った。
「いくと……」
「ゆ、ゆきの?」
 行人の首にゆきのの細い腕が回された。
「――しぃよ」
「え?何、どうしたの?ゆきの?」
 聞き漏らすまいと、行人はゆきのから離れる素振りすらしなかった。

だから、ゆきのは――
「私、行人が欲しい……」
「え――、むぅ!?」
 その儘、行人の唇を奪ってしまった。
 ちゅぅ、ちゅっ、ちゅるっ、とゆきのが吸った水音が土間に響く。
 足りないと、ゆきのは思った。
 もっと行人が欲しい。接吻だけではこの体に灯った火は収まりはしない。もっと行人と触れ合って、一つになりたい。綺麗なものじゃなくて、ドロドロに混ざり合ってしまいたい。
 肉体がそんな欲求を求めてるのだと、ゆきのは本能的に理解していた。
 ゆきのを抱いた行人は身を屈める姿勢しか取れず、下から抱き付いてきたゆきのに体重が掛からないように何とか持ち堪えていた。
 しかし、そんな行人の体にゆきのの両脚が組み付いた。その負荷に、ついに行人はゆきのの上に覆い被さった。
 密着してきた行人の感触に、ゆきのは歓喜した。
 その瞬間――、
「あ、アレ?」
「ぷはっ!?ゆ、ゆきの?」
 行人に密着した拍子に、ゆきのは行人に押し当てられた自分の下着が濡れている事に気が付いた。
 ゆきのの頭に上っていた血が、一気に下がった。
「あ、あ、あ……!?い、いや、見ないで!!行人っ!!」
「え?どうしたの?ゆきの?」
 "れでぃ"として見て欲しい行人に、粗相をしてしまったと思われる恐怖がゆきの中で弾けた。
「ちょっと、ゆきの。どうしたの?」
 だが、それに気付いていない行人の態度にゆきのは背中に冷や汗を流しながら胸を撫で下ろした。
「わ、私、ちょっと用事思い出しちゃったから、今日は帰るね行人!!」
「あ、ちょっと、ゆきの!?」
 脱兎の如く走り去っていったゆきのに行人が声を掛けたが、挫いた足ではその場に取り残されるだけであった。
「もう、どうなってるのよ〜!?うわ〜んっ!!」
「あれ?ゆきのちゃん?」
 途中で帰宅しているすずに出会っても、ゆきのは気付かずに走り続けた。
 その晩、何故かゆきのの家ではかがみの大笑が響き渡っていた。

「全く!!娘に何てモノを仕込ませてたのよ、お母さんってば……!!」
 昨日、抱腹絶倒に陥ったかがみから茸雑炊の隠し味の下ろし汁の真相を聞かされたゆきのはくまくまの頭の上で憤懣を撒き散らしていた。
"まぁ、一応ゆきゆきを応援したつもりなんだろうとは思うケド……"
「で、それがいきなり『一口口にすれば忽ちエロエローンな気分になる茸の下ろし汁』って、何考えとんじゃコラ〜っ!!」
"ゆ、ゆきゆき。そう言う事はあんまり大きな声で言わない方が……"
「くっ、むぅ……」
 くまくまにやんわりと宥められ、ゆきのの頭の血が少しずつ下がり始めた。
"でも、ゆきゆき。どうして昨日はいくいくの所から逃げてきちゃったの?何はともあれ、色々とちゃんすだったんじゃない?"
「う……」
 くまくまの指摘に、ゆきのが口篭った。確かにくまくまの言う通り、満足に動けない行人を手篭めにするには絶好の機会であった筈である。
"そもそも、ゆきのは最初からいくいくをお婿さんにするつもりだったんでしょ?もう諦めちゃったの?"
「べ、別に諦めたワケじゃ無いわよ。それに、今ゆきのは行人のお世話をしてるんだから。それで、行人が治ったらまたゆーわくしてメロメロにするから良いの」
 まさか、行人に欲情して起こった初めての生理現象を粗相をしたと勘違いして逃げてきたとは言えず、ゆきのは瞠目しながらそう答えた。
"ゆきゆきがそう言うのなら、良いケド……"
「そうそう、れでぃは焦らないの。いつでも余裕を持ってなきゃ」
 すずの家の前で、一人と一頭の会話はお開きとなった。

「じゃあ、ゆきのちゃん。くまくま借りてくね。今日も行人の世話、お願い」
「任せといてよ、すず姉ぇ。今日はばっちり看病するんだから」
「今日は?」
「ううんっ!!『も』!!今日もばっちり看病するから、すず姉ぇは心配せずに仕事に行ってきてね!!」
「?えっと、それじゃ私行ってくるね。行人、ゆきのちゃん」
"ゆきのも、頑張ってね"
「うん、行ってらっしゃい。すず、くまくま」
「行ってらっしゃ〜いっ!!」
 すずを見送りながら、ゆきのは背後から突き刺さる行人の視線にじんわりと汗を掻き始めていた。
「えっと、行人。き、今日もお世話しに来たよ?」
「う、うん。よ、宜しく……」
 ぎこちない挨拶が済ませられると、ゆきのと行人の目が合った。
「あ……」
「う……」
 両者の顔が、見る間に上気していく。泳いだ視線が、ふと絡み合った。
「ゆ、ゆきの。その、昨日のキスの事なんだけど……」
「――っ!?」
 ゆきのの脳裏に行人との接吻が蘇った。
 少し乾いて、それでいて柔らかくて温かい感触。舌先に感じた行人の味に、ゆきのの頭が一気に茹で上がった。
「――はっ!?ち、違うよ、行人っ!!アレはお母さんが仕組んだ事で、本当は私そんなつもりじゃなかったんだよ!!」
「え?」
「お、お母さんがね、変な気分になる茸を入れてたの。それで先に味見した私が変になっちゃって、あぁなっちゃったの」
「そ、そうなんだ?」
「う、うん」
「そっか、別に深い意味とかは無かったんだ。まぁ、そりゃそうだよね。ボクってそんなに意識されてるワケじゃないし……」
 ゆきのから真相を聞いて、行人の表情に安堵と少しの落胆が浮かぶ。
「いやいや、相手はゆきのだし、何期待してんだ?ボクは?」
「ん?何?行人?」
 小声で聞き取れなかった行人の呟きに反応したゆきのに、行人は誤魔化の愛想を浮かべた。
「ううん。何でも無いよ。それよりも、やっぱりゆきのには謝っておくよ。ゴメン、ゆきの」
「え?どうして行人が謝るの?」
「そ、それは、ゆきのだって望まない形でキスしちゃったんだから、ボクは男として責任は取らなくちゃいけないよ」
 「望まない」。その言葉に、ゆきのの胸の奥が少し、締め付けられた。
 確かに予想外の接吻ではあったが、もう一度したいかと自分に問えば、その答えはこの胸の高鳴りと体の芯に灯る熱さだった。
「い、今はそんなのはどうでも良いの。それよりも、私は行人の世話をしなくちゃいけないんだから。ほら、包帯の交換と虫刺されのお薬を塗り直すわよ」
 土間から居間に上がり、ゆきのは行人の布団の隣に膝立ちになった。
「包帯を解くから、腕を出して」
「うん」
 差し出された腕に巻かれていた包帯を、ゆきのが器用に解いた。その下から現れた行人の腫れて硬くなった腕を見て、ゆきのの良心がずきりと痛みを覚える。
「まだ痛い?行人」
「いや、痛いのはそんなに無いケド、どっちかって言うと、痒いかな?」
 ゆきのの心配そうな顔を見て、行人は正直な感想を述べた。

「はは、オババの薬は効くんだけど、薄荷みたいで少し匂いがキツイよね?」
「う〜ん、これは一旦落とした方が良いかも」
 冗談めかした行人に、ゆきのが真面目な表情でそう漏らした。
「行人、私がお風呂に入れてあげるね」
「はい?」

「そりゃまぁ、風邪を引いたワケじゃないからお風呂くらいは大丈夫だとは思うケド……」
「だから、ゆきのが手伝ってあげるってば」
 腰タオル一丁で風呂椅子に腰掛けた行人の背後で、三助になったゆきのが泡を立てた手拭いを構えていた。
「ゆきの?えっと、ちゃんとタオルは巻いてるよね?」
「うん、ちゃんと体に巻いてるよ」
 色々と抵抗を試みてみた行人であったが、「行人、そんな匂いを振り巻いてたらすず姉ぇだって気になるかもしれないよ?」の一言で遂に折れたのであった。
 自分一人なら堪えられても、周囲にまで気にさせてしまうのであればそれは別の問題であった。意地は大事であっても、それで迷惑を掛けては駄々にしかならない。
「それじゃ、背中から流すね?」
 風呂桶に注がれていた湯が、行人の背中を流れていった。
「んっしょ、んっしょ……」
 背中を擦る度にそんな掛け声がつい出てしまうゆきのに、正面を向いた行人は思わず口の端が少し上がった。
「今度は腕を洗うね」
「うん」
 伸ばした腕を丁寧に磨いていく。支えているその小さな手から伝わってくる一生懸命さに、行人は嬉しさと感謝を覚えた。
「一旦流すね、今度は髪を洗ってあげる」
「うわっ!?ぶっ!?ゆ、ゆきの?」
「ふふふっ」
 いきなり頭から湯を浴びせ掛けられ、行人は驚きの声を上げた。そして、背後から聞こえてくる悪戯な笑い声に、釣られて行人も笑い返す。
「何処か痒い所とか無い?行人」
 行人の頭を泡で包みながら、ゆきのが具合を尋ねた。
「ううん。気持ち良いよ、ゆきのってこういうの得意なの?」
「うん、くまくまとか、他の皆の体とか洗い合ってるから。って言うか、行人は一人でしか入った事無いでしょ?」
「そ、そりゃそうだけど、普通はそうでしょ」
「えへへ〜。じゃあ、ゆきのが行人と一番最初にお風呂に入ったんだね」
「と、特別にだからね!?今回は仕様が無く一緒に入ったケド、普通は入らないから!!」
「え〜?」
「ゆきのも女の子なら、ボクが男だって事解ってよね」
「う……」
 行人の洗髪をしていたゆきのに、その言葉が目の前の行人の裸を強烈に意識させた。
 島の誰とも違う、男の体。大きくて逞しくて、そして優しくて温かい。
「ゆ、ゆきの?」
「行人の背中って、大きいよね」
 背中に密着しながら、ゆきのは体を預けた。
 背中越しに伝わってくる行人の大きくなった鼓動が可笑しくて、ゆきのは頭に伸ばしていた手を行人の前に伸ばした。
「ちょっと、ゆきの!?わはははっ!!」
「胸かな?何か前も凸凹してるね、行人。脇も何か段々になってるし」
「そ、それは筋肉だってば!!く、くすぐったいから、ゆきの!!あはははっ!!」
 伸びてきたゆきのの手を払おうとして、行人がその腕を掴んだ。
「きゃあっ!?」
 ズルリと、バランスを崩したゆきのが行人の背中を滑った。同時に、布ではない温かいしっとりとした柔らかい感触が行人の背中に広がる。
「――っ!?」
 そして、背中を擦り抜けたその感触に行人の全身に粟立つ様な衝撃が走った。更に、腕を掴まれた儘立ち上がってきたゆきのが、再び行人の背中を擦り上る。
「ゆ、ゆきの!?た、タオルはっ!?」
「お、落ちちゃったから拾いたいんだけど?」
「あっ!?ご、ゴメン!!」
 ゆきのに言われて、行人は慌てて掴んでいた腕を放した。
 洗髪の泡で見えないが、それでも行人は背中に感じた感触がゆきのの剥き出しの前面である事は理解出来てしまっていた。
 薄い脂肪の付いた胸や腰回りの未発達さはまだ性の未分化の身体で、ともすれば少年と間違えそうだった。
 それでも、一度意識してしまえばゆきのは行人にとって女の子にしかならない。
「ゆ、ゆきの。後は一人で出来るから、もう良いよ?」
 これ以上の接触はお互いの為にならないと思った行人は、そう告げて視界を塞いでいる泡を流す為に風呂桶を探して手を伸ばす。
「はい、行人。流すよ?」
 そんな行人の背中からゆきの声が聞こえ、頭から湯が掛けられた。

「あ、有難う、ゆきの。それじゃ、ボクはあっち向いてるから、その間に温まって上がっ――」
「行人ってば、何でそんなに屈んでるの?」
「ひゃあっ!?ゆ、ゆきのっ!?」
 興味本位に背後から抱きついてきたゆきのに、行人は悲鳴を上げて仰天した。
「きゃっ!?」
「わわっ!?」
 その拍子に行人が風呂椅子から滑り落ち、一緒にゆきのも縺れて倒れ込んだ。
「!?た、大変、行人!!行人のお股の、何か腫れてるよ!?」
「うわぁあぁっ!?み、見ちゃ駄目〜っ!?」
 既に腰巻を突き上げていた行人の逸物が、選りにも選って上になったゆきのの眼前に曝け出されていた。
「……こ、これがお母さんが言ってた男の人のなのかな?」
 ゆきのの目がキラリと光ったが、生憎と気の動転した行人がそれに気付く事は無かった。
「行人?おしっこ我慢してるの?」
「え?」
 的外れはゆきのの言葉に、行人の正気が少し戻り始めた。
「ほら、ここって男の人のおしっこが出る所なんでしょ?だから行人は若しかして我慢してるのかもって思って……」
「…………」
 確かに、ゆきのの年齢で男性の生理現象を理解しているとは思えない。と言うか、この島においてそもそも性と言うものを医学書以外で知る術はあるのか甚だ疑問である。
 尤も、性教育と医学的な知識では少なからず乖離があるのであるが、それはこの際行人にとってはどうでも良かった。
 女子に劣情の勃起を見られるくらいならば、いっそトイレを我慢していると思われる方がまだマシであり、それが通用すると思っている程に青かったのであった。
「う、うん。実は、我慢してて……」
 その言葉を聞いて、ゆきのが、にぱぁ、と犬歯を覗かせた。
「じゃあ、ゆきのが出して楽にしてあげるね」
「え?あ、ゆきの?ひゃあっ!?」
 浴室の床で大の字になった行人の股の内側に潜ったゆきのが、行人の屹立した部分を掴んだ。
「んとね、こうすると中のおしっこが出るんだよね?」
「そ、それは、くぅっ……!!あぁっ、ちょっ、んあぁっ……!!」
 しゅっ、しゅっ、しゅっと表面の皮を押し付けて滑らせる様に扱いてくるゆきの手の動きに、行人の口から羞恥と喜悦が混じった声が漏れた。
「あ、ほら。何か滲んできたよ?」
 湯ではない粘液が行人の先端から溢れ、潤滑剤となって行人とゆきのの手を包み込み、にちゃにちゃと卑猥な音を出していた。
「行人のおちんちん、ゆきのの両手じゃ収まらないね。今にも爆発しそうだよ?」
 ゆきのの目が、愉快そうに行人を見下ろしていた。それは明らかに悪戯を越えた表情で、欲情した牝の色が浮かんでいた。
「ふぁあっ!?も、もうそれ以上、あぁっ……!!」
「出ちゃう?出ちゃうの、行人?良いよ。思いっきり出して、行人」
 射精の兆しを感じ取ったゆきのが、ガシガシと乱暴に行人の陰茎を擦り上げた。そんな強烈な痛さと快楽に、遂に行人が限界に突き上げられた。
「ひぅあぁっ!?」
「きゃっ!?」
 初めて見る射精に、ゆきのが驚きの声を上げた。
「あぁっ!!ゆ、ゆきのっ!!手を、休め――くぁあっ!!」
 そして、射精させられる間もゆきのに扱かれ続けて、行人は腰が抜ける程の大量のスペルマを一気に搾り出させられた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「い、行人……?」
 息荒く、焦点が合わない行人を、ゆきのが心配そうに覗き込んだ。
 浴室に立ち込める濃厚な精液の青臭い匂い。その精を自身の腹にブチ撒けた行人が、ゆきのには何だか途轍もなく淫らに映った。
 ゴクリと、ゆきのの細い喉がはしたない音を立てた。
「行人……」
「え、あ?ゆきの?」
 跨った行人の腹に、ゆきのから湯とも汗とも違う粘液が落ちた。しかし、未だ忘我の境地にいる行人と衝動に突き動かされたゆきのはそれには気付かない。
 一つ判る事は、
「行人ぉ……。むぅ、ちゅぅ……ン」
「はぅ、……ン」
 行人はゆきのに、二度目の唇を奪われている事だった。
「はぁ、あぁ……。んちゅぅ、んんぅ……」
「ふぁ……、あ、……む、ン」
 仰向けになった行人の覆い被さったゆきのが、両腕で行人の頭を掻き抱いてその唇を啄ばんでいた。
 触れ合う剥き出しの肌から伝わってくる感触は燃える様に熱く、一方で背筋に悪寒の様な冷たさを齎していた。
 その感覚を、ゆきのは狂喜して受け入れた。
 目を閉じて体を重ね合わせ、欲しいと思う儘に行人を貪った。
 行人と自分の輪郭が体温と共に混ざり合っていくその感覚に、溺れてしまいたかった。

それなのに、
「ゆ、ゆきの。ちょっと、待って。落ち着いて……」
 ゆきのの肩に手を置いて、行人がそっとゆきのを引き剥がした。
「えぇっと、ゆきのは今自分が何をしてるのか解ってるの?こう言うのは――、」
「好きな人とじゃないとダメなんでしょ?」
 機先を制され、行人が思わずたじろいだ。それでも、何かを言おうとする行人の口を三度ゆきのが塞いで黙らせた。「ぷはっ」と、互いに糸を引きながら口を離し、ゆきのは恥ずかしげに目を泳がせた。
「わ、私は、その、い、行人の事、す、好きだよ?」
「うぅっ――!?」
 その仕草に、行人の心臓が跳ね上がった。子供っぽくて、勝気な性格のゆきのが真剣な面持ちで告白してくる様は形容し難い女の子らしさがあった。
「で、でも、こう言うのはもっと大きくなってからじゃないと」
「お母さんだって、私とそう変わらないじゃない」
 縋る様な眼差しに、行人の理性に亀裂が走った。しかし、それでも行人は――、
「背も、胸も今より大きくなるから。大きくなる様に頑張るから、大人っぽくなって、ずっと綺麗になるから。だから、行人」
 ゆきのは、行人の首に齧り付いた。震えているゆきのに、行人の中で何かがそっと弾けた。
「行人の事、好きでいさせてよ。ゆきのの事、好きになってよぅ……」
「……ゆきの」
 震えるゆきのの背中に、行人がそっと腕を回した。
「――っ!?」
「安心してよ、別に脅かすワケじゃないから」
 身構えたゆきのに、行人が小さく笑みを零した。
「えっと、その、ゆきのが本気でボクの事を想ってくれてるのは判ったよ。何て言うか、そんなに熱い告白されるなんて思ってもみなかったかな?」
 頬を掻きながら、行人は照れた表情でゆきのに微笑み掛けた。
「うん、凄く嬉しかったよ。ゆきの」
「行人、それじゃあ……」
 安堵の所為か、ゆきのは抱かれる儘に行人の胸に体を預けた。
「ちょ、ちょっと待って、ゆきの。嬉しいんだけど、やっぱりこう言うのはボクらには早いと思うんだ。別にゆきのが子供とか言うんじゃなくて、ボクもまだ子供って事も含めてね」
「え?だって、お母さんが行人から白いネバネバしたおしっこが出ればもう子作りは出来るって言ってたよ?」
「あの人、自分の娘に一体何を吹き込んでるんだよ?」
 痛む頭の中で高笑いをするかがみの姿が浮かんだが、行人は頭(かぶり)を振ってその幻影を追い出した。
「だけど、ゆきのはまだ11歳でしょ?体だって十分に出来上がってないのに、子供なんか作ったら負担が大きいんだよ」
「そうなの?お母さんは、子供が出来る体になればちゃんと子供が出来るから、それまでは寧ろガンガン子作りの練習しなさいって言ってたよ?」
「間違ってる……。絶対にその性教育は間違ってるから……」
 滂沱の涙を流しながら、行人は腕の中のゆきのに言い聞かせた。
「それより、行人は私の事好きなの?その辺をはっきりさせてよね」
 単刀直入なゆきのの物言いに逃げるわけにもいかず、行人は面映い様子でゆきのを見た。
「そ、それはあんな告白をされたら、断るわけにもいかないじゃないか。何て言うか、その、告白されて逆に惚れるって言うか……」
「え?じゃあ、行人……!!」
「うぅ……。ぼ、ボクもゆきのの事が好きになりましたっ!!これで良い?」
 その言葉に、ゆきのの大きな瞳からつぅ、と涙が頬を伝って落ちた。
「ふ、ふぇ……。ふぇえぇえ〜ん!!」
「ゆ、ゆきの!?ちょっと、どうしたの?ねぇ!?」
 ポロポロと涙を零し始めたゆきのに、行人が驚いて声を掛けた。しかし、それが嬉し泣きなのだと気付いた行人はゆきのが落ち着くまで優しく抱き締めて頭を撫で続けた。
 本当は怖がりで泣き虫で、それでも勇気を出して告白してきた小さなゆきのを、行人は誰よりも愛おしいと感じた。
「い、行人ぉ……」
「うん……」
 どちらからとも無く、今度は自然に二人の唇が優しく重なり合った。
 それが二人にとって初めての、恋人同士のキスになった。

「行人。茸雑炊が出来たよ」
 土間の竃から湯気の立ち昇る鍋を囲炉裏に移し、ゆきのは取り皿に雑炊を装った。琥珀色の出汁に浮かぶ白米と山菜、そして種々の茸に行人は思わず喉を鳴らせて見入った。
「うわぁ、美味しそうだね。やっぱりゆきのって、凄いよ」
 正直に感心する行人の様を見て、得意そうな表情でゆきのは行人の隣に移った。
「えへへ〜。行人〜」
 八重歯を覗かせたゆきのが、蕩ける様な声で行人を見上げていた。そんなゆきのの素直な仕草に、行人の顔にさぁ、と朱が差す。
 風呂場での接吻を済ませてから、ゆきのはずっと上機嫌であった。
 行人をメロメロに出来たと言うのもあるが、それ以上に自分が行人を好きになったと言う事を改めて認識した事がゆきのには一番嬉しかった。
 尤も、その幸せな時間は体が冷えたゆきののくしゃみで粉砕されてしまったのだが、それでもその余韻はゆきのを醒めない高揚感で満たしてくれていたのだった。
「ゆきのが行人に食べさせてあげるね」
「えぇ!?」
 そんな驚きの声もゆきのは気にせず、上目遣いで行人の口元に雑炊を掬った木製の匙を寄せた。
「だって、行人の手ってまだ良く動かないんでしょ?だったら、私が食べさせてあげた方が良いじゃない」
「そ、そりゃあそうかもしれないけど、一応自分でご飯くらいは食べられるから大丈夫だって」
 照れる行人に、ゆきのは匙を突きつけた。
「も〜っ!!行人ってば相変わらず鈍感なんだから!!ここは恋人から素直に『あ〜ん』されるトコロって決まってるでしょ?」
 頬を膨らませるゆきのに、行人は力無く頭(こうべ)を垂れた。
「うぅ、流石に判ってたけど……。でも、それはそれでボクが恥ずかしいんだけど?」
「恥ずかしくないわよ。だって、私と行人は恋人同士でしょ?」
 当然、とばかりにゆきのが言い放った。
「そ、それに、こんな機会でもなければ行人ってば『あ〜ん』させてくれないでしょ?だから、今の内に少しでも恋人らしい事やっておきたいの」
 少し照れの混じったゆきのの態度に、行人の中で羞恥心とゆきのへの愛おしさが鬩ぎ合い始めた。
「ねぇ、行人。それとも、私なんかに甘えるのは行人にとってはやっぱり恥ずかしい事なのかな?」
 冷えた匙を雑炊の中に戻して、ゆきのがぽつりと呟いた。
「んっ、ん。ほ、ほら。ゆきの」
 目を瞑り、行人は咳払いをして大きく口を開けた。その行為にゆきのが喜色に染まる。少しズルイとは思ったが、やっぱり行人は優しいとゆきのは思った。
「うん」
 まだ温かい雑炊を掬った匙にふぅ、と息を吹きかけ、ゆきのは行人にそっと匙を差し出した。
「はい、行人。あ〜」
「んっ」
 咀嚼していた行人が視線を感じて目を開けると、ゆきのが期待の篭った瞳で行人を見ていた。
「うん、美味しいよ。ゆきの」
 微笑みながら、行人はゆきのの頭を撫でた。途端に、ゆきのの表情が砕けた。
「あ、当たり前でしょ。行人の為に作ったんだから」
 巻き直した包帯の所為で腕の動きがぎこちなかったが、それでもゆきのは行人にされるが儘に頭を撫でさせた。
 子供扱いされている様にも思えたが、それよりも行人から触れてくれるのが純粋に嬉しくて、ゆきのは振り払おうとはしなかった。もっと、撫でて欲しいとすら思えた。
「えへへへ〜。行人、はい。あ〜ん」
「はは……。もう、こうなったら全部食べるよ」
 緩んだ表情で食べさせてくるゆきのに、行人は観念して再び口を開いた。
 何故か、行人には甘く感じられるゆきのの茸雑炊であった。
「あ、行人。茸雑炊はこれで最後だよ」
 暫く二人で突付きあった鍋も遂には底が見えてきた。そして最後の雑炊が、ゆきのの匙に載せられる。
「はい、じゃあ最後の『あ〜ん』だね。行人」
「うん。あ〜……」
 もう慣れたのか、はたまた自棄になったのか。ゆきのに促される儘に行人は目を閉じて構えた。
 そんな行人に、ゆきのの瞳の奥で妖しい光が灯った。本当に何処までも無防備で、可愛くて、そしてゆきのの悪戯心を刺激する行人だった。
 ゆきのは匙の雑炊を自分の口に入れ、空になった取り皿と匙をそっと盆の上に載せて脇に退けた。口腔の雑炊を飲み込まない様にして、両手で行人の頬をがっちりと包み込んだ。
「?――んむぅっ!?」
「ん〜〜〜〜っ!!」
 突然、口移しで食べさせてきたゆきのに行人が驚いて目を開いた。差し込まれたゆきのの舌の所為で口が閉じられず、行人は思わず舌を引っ込めた。
「うぅん、うぅっ、むぅ――!?」
「んっ、んっ、はむっ、んぅ……!!」
 それでも、逃げる行人の舌をゆきのの舌が執拗に追い回した。

舌先が触れ合った瞬間、ゆきのの舌が絡み付き、ざらついてヌルヌルとした舌が容赦無く行人の舌に擦り付けられる。生々しいその感触に、行人の脳髄が焼き切れそうになった。
「――っ!?」
「んふふ……」
 ごくり、と。行人はゆきのから送られて来た雑炊を飲み下した。その拍子に、ゆきのと行人の目が合った。その瞳の妖艶な色に、行人の背中にぞくりと悪寒が走った。
「ゆ、ゆきの……?」
「行人ってさ、凄く可愛いよね」
「は……?」
 口元を拭いながら、ゆきのはクスクスと笑みを零した。その儘股を割る様に、ゆきのは体を行人の両脚の間に潜らせた。
「ゆきのよりも年上なのに、何だか子供みたいなんだもん」
 行人の両肩に手を乗せて、膝立ちになったゆきのは戸惑う行人を愉しそうに見下ろしていた。
 これから自分が何をされるのか、行人は分かっているのだろうか。それを考えると、ゆきのには堪えきれない笑みが込み上げてくる。
「えへへ、行人……」
「うわっ!?ちょっと、ゆきの!?」
 体重を掛けて、ゆきのは容易く行人を押し倒した。困った顔の行人がもっと見たくて、ゆきのは行人の前をそろりと撫で上げた。
「ひゃあっ!?」
「あれ?行人、またおちんちんがおっきくなってきたよ?またおしっこがしたいのかな?」
「ひぅあ、あうぅ、ゆ、ゆきの……。ふうぅあっ……!!」
 今度は服の中に手を滑り込ませて、ゆきのは直に行人のペニスを扱き上げた。充血を始めた海綿体が、跳ねる度にビクビクとその幹を逞しく太らせていく。その感触に、ゆきのの興奮が掻き立てられた。
「凄ぉい、行人。行人のがどんどん大きくなってくよ?こんなに大きくて、ちゃんと全部入るのかな?」
「ゆ、ゆきのっ!?」
 しゅるっ、と。行人のズボンが下着ごと擦り下げられた。ひんやりとしたその感触に、行人は自分の下半身が剥き出しにさせられたのを感じ取った。
「は、初めてだけど、頑張るね」
「ま、待ってゆき――、うわぁっ!?」
「んぷっ、んっ、ちゅっ、れろ、んっ、むうっ」
 亀頭がヌメった感触と温かさに包まれて、行人はその快感に驚きの声を上げた。
「んっ、んつ、んんっ〜っ!!」
「ひあぁっ!?ゆ、ゆきのぉ、そ、それは――、ぁああっ……!!」
 悶える行人の股間で、ゆきのの頭が懸命にちゅぷ、ちゅぷ、水音を立てて上下に動いていた。
 ゆきのが口いっぱいに行人の勃起を頬張ってもとても全部は入りきらなかったが、広がった笠を吸い上げては嘗め回し、涎が垂れる竿をしゅっ、しゅっ、と捻りを加えながらその小さな手を滑らせていた。
 行人にとって、初めてにしては強烈過ぎるゆきののフェラチオであった。
「はぁ、むぅ、んっ、んっ、んん〜〜〜っ!!」
「ひぃあ、ゆ、ゆきの……!!そ、そんなにされると、あぁ〜っ!!あぁっ!!」
 ズッ、ジュルッと、ゆきのが行人を啜る音が部屋に響き渡った。陰茎を扱く手からも、にちゃにちゃとゆきのの唾液と行人の性液が混じった液が粘ついた音が立っていた。
 泣きそうな行人の声。それでも、否。だからこそ、ゆきのは行人を犯すのを止めようとはしない。行人の春声が聞きたくて、ゆきのは血の滾る行人のペニスを責め立てた。
「うあぁっ!!だ、駄目ぇ!!もう、無理っ!!む――、あぁっ……!!」
「ふむぅっ!?」
 ビクンビクンと、尿道を割り開きながら昇ってきた精液が、その脈動に合わせて行人の快楽を引き摺り出しながらゆきのの口に吐き出された。
「んんっ、んん〜〜〜っ!!」
「あぁっ!!くぁあっ!!っふぅっ!!す、吸わ、れ、てるぅあっ!?」
 射精で痙攣しているペニスを更に扱いて吸引し、ゆきのは尿道に残った精液をじゅる、じゅるるっ、と全部吸い上げた。その抜けていく感覚に、行人は堪らず身悶えした。
 が、
「〜っ!!」
「ゆ、ゆきの?」
 大量の精液を口に含んだゆきのが、身を翻して流しに直行して盛大に口を漱ぎ始めた。
「うえ〜っ!!何よ〜っ、ちっとも美味しくないじゃないっ!!」
「……え?」
「何が『行人ちゃんのミルクだから、ちゃんと味わっときなさいよ?』よ!!も〜、全然ミルクじゃないじゃないっ!!」
 呆気に取られる行人の視線の先では、目に涙を浮かべたゆきのがぎゃあぎゃあと自宅の母親に向かって吠えていた。
「うぅ、やっとスッキリしたわ……」
 口元を拭ったゆきのが再び行人の前に戻り、身を起こしていた行人を再びゆっくりと押し倒して体を重ね合わせた。

「え、えっと……。その……」
 のぼせた頭で思考が出来ず、行人は目の前のゆきのに意味の無い言葉の羅列しか並べられなかった。上に乗る小さな女の子に、行人は完全に主導権を握られてしまっていた。
 はぁ、はぁ、とゆきのの吐息が行人に掛けられた。そんな幼いゆきのが漏らす発情の吐息が、行人の理性を溶かしじわじわと生殖の本能を喚起させ始めさせてしまう。
「うぅ……。ゆ、ゆきの……」
 ゆきのに愛しさを抱く程、行人の中でゆきのを犯したい衝動が大きくなり、同時にそれを抑える感情も膨れ上がった。行人の手がゆきのの背中に伸びる。その時だった。
「い、行人。あのね、お母さんから色々教えて貰ったんだけど、私、子供の作り方だけは教えて貰わなかったの」
「ど、どうして?」
 ここにきてのゆきののその言葉に、行人は伸ばし掛けた手を思わず止めてゆきのの台詞の続きを待った。
「凄く痛いって聞いたよ?血も出ちゃうって聞いたの」
「うん。多分、ゆきのには辛いと思うよ?」
 行人とて年齢的には依然未熟な少年であり、更にゆきのはそれ以上に幼い少女だった。子供同士であると言っても過言ではない。その事実に、行人の頭が冷えた。
 落ち着いた行人を見て、ゆきのも昂っていた気持ちを鎮め始めた。行人を見下ろす瞳が、ゆきのの意思を運ぶ。
 その心が知りたくて、行人は黙ってゆきのを見詰め続けた。そして、ゆきのが深く、深呼吸を済ませた。
「私ね、行人なら痛いのだって平気だよ?」
「ゆきの?」
「どんなに痛いのかは知らないけど、どんなに辛くて泣いちゃっても、ゆきの絶対に止めてなんて言わないよ?だから行人……」
 行人を抱き締めながら、耳元でゆきのが搾り出す様に囁いた。
「痛くても良いから、ゆきのは行人に抱き締めて欲しいよぅ……」
 行人の中で、愛おしさが堰を切って流れ出した。その感情の奔流に、行人は逆らわなかった。
「ふぁ!?い、行人っ!?」
「ゆきの……」
 ゆきのを抱き締めて、その儘行人はゆきのを押し倒し返した。布団を背に寝かされたゆきのの瞳が一瞬だけ揺れたが、見上げた先の行人の目を見て柔らかく蕩けた。
「痛いよ?」
「うん」
 確認する行人に、ゆきのは力強く返した。
「ボクだって初めてだし、上手になんて出来ないよ?」
「うん」
 ゆきのはそれでも、行人の言葉に頷いて微笑んだ。
「行人が愛してくれるなら、きっと痛いのだってゆきのには嬉しいもん。行人の事が好きだから、痛いのなんてへっちゃらよ」
 息が詰まりそうだった。ゆきのが愛おしくて、何もかもが吹き飛ばされる。ゆきのが望む幸せを与えられるのなら、行人はもう躊躇わなかった。
「なら、ボクも絶対に途中で止めないよ。ゆきの……」
「うん、止めないで。行人……」
 居間の床にしゅるりと、衣の擦れる音が響いた。

「行人……」
 解かれた上着が床に広がり、脱がされたスカートがその隣で無造作に折り畳まれていた。
 潤んだ瞳が、ゆきのを包む様に覆い被さってくる行人をじっと見詰めている。
「な、何だか凄くドキドキするよ……?」
 起伏の乏しい薄い胸を掌で隠しながら、ゆきのが少し目を伏せて視線を逸らした。
 細い首に華奢な肩、くびれの殆ど無い平らな腹とまだ肉付きの薄い腰周り。
 そして腰の下着だけが、ゆきのの最後の砦だった。
「――っ!?」
 行人の指に頬を撫で上げられ、ゆきのは思わず身を強張らせた。緊張してガチガチになっているゆきのが可愛くて、行人はつい口の端から小さく噴き出した。
「な、何よぅ。は、初めてなんだから、私だって緊張ぐらいするわよ……」
 笑われた事が癪なのか、ゆきのが強がる口調で言い放つ。
 そんな仕草がいじらしくて、行人の中にゆきのを困らせたい衝動が少しだけ生まれてしまう。
「あ……」
 ゆきのの手を退かし、行人はゆきのの慎ましやかな胸部を露わにさせた。仰向けで、只でさえ少ない胸の脂肪が更に薄くなるともう薄紅色をした二つ先端くらいしか胸を主張するものは無かった。
「や、あ、うぅ……」
 隠そうにも、行人に手首を押さえられてしまってはゆきのはイヤイヤと首を振る事しか出来無い。
 島で最年少とは言っても、周りにいる胸の大きな娘たちに憧れとコンプレックスを抱いてきたゆきのにとって、行人に女の子としてこの未発達な胸を見られる事は恥ずかしさを覚えてしまう事だった。
「ふ、ふぇ……。い、行人ぉ……」
 泣きそうなゆきのが切ない声を上げて行人を見上げてきた。そんなゆきのを慰める様に、行人はゆきのの胸にそっと舌を伸ばした。
「ひゃあっ!?い、行人っ!?」
「ん?どうしたの?ゆきの」
「ゆ、ゆきののおっぱい――ひぁっ、ふぁっん!?」
「うん、な、舐めてるんだけど……」
 改めて指摘されては流石に恥ずかしいのか、赤面した行人がゆきのの胸から上目遣いにそう漏らした。
 舌で周囲の縁をなぞり、先端を唇で含んで転がすとコリ、とゆきのの乳首に芯が出来た。
「や、あ、あ……ん。え、えっちだよぅ、行人ぉ……」
「そ、そりゃあそうだけど、今ボクたちはそう言うコトやってるわけだし……」
 身悶えするゆきの胸から顔を上げると、行人は目を泳がせた。
「そ、それに、もっと恥ずかしいコトだってするんだけどね」
「え……?」
 ゆきのが呆気に取られていると、行人はゆきのの腰に手を伸ばし、するっとその下着を取り払った。
「い、行人っ!?」
「だ、だって裸になんなきゃ出来ないでしょっ!?」
「そ、そんなの知らないもん!!」
「そりゃそうかも知れないけど、えっちなコトをする為にはお互い裸の方が良いから仕方が無いの!!」
 慌てたゆきのに、行人も張り合う様にして言い返した。合意の上ではあるが、性知識が皆無である上に幼いゆきのを船卸しさせる行人にとって、込み上げてくる謎の背徳感を振り払わなくてはとてもではないが無理だった。
「い、行くよ?ゆきの……」
「あ、だ、ダメっ!!」
 ぴったりと閉じられたゆきのの股を行人がぐい、と抉じ開けられた。目の前に現れたゆきのの性器に、行人は思わず息を呑んだ。
 閉じられていた太腿の根元はテラテラとぬめり、隆起した恥丘の下の桜色に上気した秘部と濡れた縦スジから生々しい性臭が立ち昇っていた。その強烈な牝の匂いに、行人は軽い鼻血の衝動を覚えた。
 一方、大きく開脚され、脚を閉じることが出来ないゆきのは恥ずかしさで顔を手で覆っていたが、その濡れた股間に行人が珍しそうな視線を送っていた事に気が付いた。
「あれ?ゆきの、何か濡れてるよ?」
「ち、違うよ行人!!そ、それはおしっこじゃなくて、"あいえき"って言うの!!行人のおちんちんが大きくなるのと一緒で、女の子の場合は濡れちゃうの!!」
「へぇ、そうなんだ……?」
 確かに、これから先の行為を考えれば理に適った仕組みであった。その生理現象がちゃんと発生しているゆきのに行人は感心し、同時に少し安心していた。
「そ、そ〜よ?別におしっこを漏らしたワケじゃないんだからね?」
「じゃあ、ゆきのはボクがそんな気分になってるのを知っててあんなコトしたんだね?」
 何処と無く冷えた目で、行人がゆきのを見ていた。
「そ、それはぁ……?あ、あはははは〜……」
 誤魔化す様に笑うゆきのを見て、行人は大きく溜息を吐いた。
「全く、本当にあの人は自分の娘に何教えてるんだか……」

「でも、何で濡れちゃうんだろ?ねぇ、行人。コレって何の意味があるの?」
 今は恥ずかしさより好奇心が勝ったのか。太腿に垂れた愛液を拭った指先を行人に見せながら、ゆきのが首を傾げていた。
 その質問に、行人はかなりの精神力を消耗した。解ってはいたが、いざ説明するとなると行人の中でまたもや謎の罪悪感が首を擡げてきてしまう。
「そ、それは、その……。えっと……」
「?」
「ぼ、ボクの、こ、これを……」
「行人のおちんちんを……?」
 自らの猛った性器を指差した行人が次に指差した箇所を見て、ゆきの顔面がさぁ、と蒼白になった。
「ゆきののそこに入れる為、かな?」
「えぇっ!?」
 行人がゆきのの小さな割れ目を指差すのを見て、ゆきのは驚きと恐怖で声を上げた。
 割れ目の中に尿が出る穴がある事は知っていたが、そこに硬くて大きくなった行人のペニスが入るなどとはゆきのには到底信じられない事であった。
「だって、行人。ココってゆきののおしっこが出る所だよ!?行人のおちんちんなんて入らないよ!?」
「いや、おしっこの穴じゃないから、ゆきの。えっと、その下にある穴に入れるんだってば」
「えぇ!?そんな穴があるの!?」
「いや、無かったらボクたちは生まれてきてないし。えっとね、ゆきの。子供が作れる状態の女の人のそこに男の人の精子――、まぁボクがさっき出した白いヤツを入れると子供が出来ちゃうんだ」
「じゃあ、お母さんもそうやってゆきのを作ったの?」
「かがみさんとゆきののお父さんの二人で作ったんだよ。と言うか、かがみさんはもっとちゃんとした知識を教えるべきだと思う……」
 不思議そうに行人と自分の性器を見比べているゆきのを見て、行人は頭を押さえて呟いた。
「あ、でも行人から教えて貰えれば、それは行人がゆきのを本当にお嫁さんにしてくれる証拠だってお母さんが言ってたよ?」
「そ、それは……」
「そうじゃないの?行人……?」
 途端に不安な表情になるゆきのに、行人は肩を落とした。
「う、うん。そうだね……」
「えへへへ〜。ゆきの、行人の赤ちゃんが産めるんだね。いっぱい、い〜っぱい欲しいな〜」
 両手で頬を包んで、ゆきのが笑みを零した。
「おっきくなるまでちゃんとお世話して、それで毎日一緒に遊んであげるの。お仕事も一緒にして、上手く出来たら褒めてあげるんだぁ」
 幸せそうに行人と子供たちとの未来を描くゆきのを見て、行人もそんな未来も良いと思った。沢山の家族に囲まれて、隣にはゆきのが笑っている。それだけで十分だと、行人は思った。
「ねぇ、行人。ちゃんとゆきのに子供の作り方を教えて。さっきはちょっと怖かったけど、でもやっぱりゆきの、行人の子供が欲しいもん」
「うん、そうだね」
 ゆきのの脇の下に腕を通して、行人はゆきのを抱き上げた。
 密着したお互いの胸から、体温と鼓動が感じ取れた。腕の中のゆきのと目が合って、行人はゆきのの背中に回す腕を少しだけ強めた。
「ゆきのは優しいお母さんになれるよ。きっと」
「それじゃ、行人は絶対格好良いお父さんだね」
 行人の背中と腰に腕と脚を絡み付かせて抱き付きながら、優しく抱き締めてくる行人を見上げてゆきのが微笑んだ。

 布団の上で脚をM字に開いたゆきのの前で、行人はかなり緊張した面持ちで正座をしていた。
「えっと、ゆきの。"膣"って分かるかな?その、おしっこの出る穴の下にあるんだけど?」
「えぇと、んと――ひぁっ!?あ、あったよ?多分これじゃないかな?」
 大陰唇の中に指を這わせ、更に小陰唇の中に尿道とは異なる穴が開いている箇所を見つけたゆきのが確認しながら声を上げた。
「でも、こっちも凄く狭いよ?本当に行人のおちんちんが入るの?」
「い、一応、入る筈なんだけど……」
 自らの膣口の大きさを確かめるゆきのに行人はつい目を逸らしてそう答えた。

「はぁ、んっ。あ、あれ?行人、何か変だよ?お股を触るとね、何だか――はぅっ!?え、えっちな気分になるよぅ。ふぅ……、ん」
「ぶっ!?ゆ、ゆきの!?」
 気が付けば自分の意思では止められない程に、ゆきのは陰部を指で掻き回してくちゃくちゃと水音を立てて布団に染みを作っていた。
 はぁ、はぁと息を荒らげ、まだ包皮を被っている陰核を皮の上からそっと扱き、縦に伸びた唇の中の涎を出す様にして行人を見ていた。
 そのあまりにも扇情的で卑猥なゆきのの痴態につつーっ、と遂に行人の鼻血が垂れた。
「んっ、ふぁっ――。あ、ゆ、指。止まらないよぅ。行人ぉ、あ、あっ」
 目の前に行人が居る事でゆきのはかなり高みに昇り詰めていた。そして、その行人の股間の逸物が再び硬度を取り戻しているのを確認した瞬間、
「あっ、あ、あぁぁああぁあ〜っ!!」
 ガクガクと細い腰を痙攣させて、ゆきのの秘裂からぴゅっ、ぴゅっ、と潮が小さく噴いた。
「ゆ、ゆきの?大丈夫なの?」
「……あ?い、いくと?」
 一瞬、絶頂に浸っていたゆきのは心配そうに覗き込んできた行人を見て、瞳に焦点が戻ってきた。その瞳が、情欲の対象として行人を見ていた。
「えへへへ〜。そっか、ゆきののここに、行人のおちんちんが入るんだね」
 初めてとは言え、自慰によって齎された感覚はゆきのにとって間違いなく快感であった。
 そして、その事を知ったゆきのは行人の性器と自分の性器が互いに快感を齎す器官である事を本能的に理解してしまっていた。
「ねぇ、行人」
 まだ温かい愛液に濡れた股を大きく開いて、ゆきのは粘液に塗れた指でむにぃ、と行人に見せ付ける様に糸を引く割れ目を押し開いた。
 充血した陰部の奥で、イッたばかりの性器がヒクヒクと愛液を零しながらわなないていた。
「きっと、気持ち良いよ?」
「う、うん……」
 誘われる様に、行人はゆきのを押し倒した。
「ひゃあっ」
 陶然とした響きで、ゆきのが悲鳴を上げた。しかし、ゆきのは気付いていなかった。
「ゆきの……」
 行人の理性が、ゆきのによって弾け飛んでいた事に。
「ふわぁ!?あぁっ、い、いくとぉっ……!!」
 キスから首筋に下り、胸、腹、腰と来て、行人はゆきのの股間に顔を埋めた。
 薄い全身の肉付きの割には恥丘より下はふっくらとしており、幼い肉弁は両側から盛り上がる程に肉厚であった。舌で割り開くと、いとも容易く奥の小陰唇まで行人は味見する事が出来た。
 プニプニとした柔らかい大陰唇の中に隆起した粘膜の襞。そしてその奥にある膣口からは、刺激を受ける度に止め処も無く大量の雫が行人の口を汚していた。
 堪らずにゆきのが太腿で行人の頭を押さえ込んだが、かえって行人が奥に押し込まれ、行人の鼻息がふぅふぅと陰核に掛かってしまう。
「ひいぃぃんっ!!い、いくとぉっ、それ、き、気持ち良過ぎるよぅ!!ゆきの、おかしくなっちゃうぅ!!」
 涙と涎でぐしゃぐしゃになってゆきのが身を捩って啜り泣いたが、腰だけはぐりぐりと快楽を求めてしまっていた。
「ひゃあぁぁあんっ!?い、いく――ふぁっ、あ、あぁ――!!」
 その儘両脚を行人の肩に載せられ、ゆきのは腰を浮かせられた状態で行人からのクンニリングスに責め立てられた。
 二度、三度。ゆきのの体が小さく跳ねたが、行人の舌は尚もゆきのの陰部の蹂躙は止まらなかった。
「し、死んじゃうよぅ!!こ、これ以上されたら、ゆきの――ふえぇぇえぇんっ!!ひぐっ、はぁんっ!!うわぁんっ!!あぁああっ!!」
 散々に嘗め回され、じゅるじゅると膣内を行人に啜られて、ゆきのはぷしゃあ、と盛大に行人の顔を汚して激しく身を震わせた。
「えっと……。大丈夫かな?ゆきの」
「いくとの、ばかぁ……」
 全身が弛緩したゆきのは、漸く正気に戻った行人を恨みがましい目で見ていた。

「ん、……ふぁ、あ、はぁ、はぁ……」
 ひくひくと、余韻がゆきのの太腿を震わせた。その拍子に縦に真っ直ぐ走るスリットが捩れ、内側の充血した果肉が僅かに外に零れた。
 幼いクリトリスが包皮の下からでも判る程に腫れ、下の膣口からは行人の涎に混じったゆきのの性液がだらしなく垂れ流されていた。
「い、いくとぉ……?」
「は、はい?」
 妙に迫力のあるゆきのに、行人が反射的に裏返った声を出した。
 未だに全身が絶頂の余韻で満足に動けないゆきのであるのに、睨まれた行人は縫い付けられた様に動けなくなっていた。
「も、もう此処まできたんだから、ちゃんと最後まで責任取りなさいよね?」
 膝を立てて脚を開き、ゆきのが行人に八重歯を覗かせていた。
 太腿に強調されて所為か、開きかけていたスリットが両側から盛り上がった柔肉に再びぴったりと閉じ合わせられた。
 その生々しい光景に、行人の喉が生唾を飲み下した。
「ねぇ、行人。早くゆきのに子供の作り方を教えてよ」
「う、うん。それじゃ、行くよ?ゆきの……」
 既に猛ったペニスを握り、行人がゆきのの股を割って身を進ませた。
 くちゅ、と行人の先端がゆきのの割れ目に押し当てられる。その儘、行人はゆきのの入り口を抉じ開けた。
「ふあ、あ。行人のおちんちん、熱いよぅ」
 先端がぬるりと、ゆきのの陰唇で包まれた。その感触だけで行人の海綿体が更に熱を帯びた。
 蕩けた媚肉が亀頭を両側から磨いているかの様な、そんな圧迫感すら感じてしまう程に小さなゆきのの陰部の奥。そこの僅かに窪んだ場所に行人が辿り着いた。
「あ、い、行人?」
「ゆきの……」
 ずりゅう、と。肉を滑り込ませて割り裂く感触が行人の腰に走った。
「んん、んーっ!!」
 下腹部に走る熱さに、唇を噛み締めてゆきのは堪えた。行人が与えてくれる痛みなら、ゆきのには我慢出来た。
「ひぅっ!?」
 つぷっ、と。あっけない抵抗を行人が感じた時には、既にゆきのの奥まで届いていた。
「はぁ、はぁ……。い、く、とぉ……?」
 目尻に涙を浮かべて、ゆきのが呼吸を荒らげていた。そんなゆきのに行人がしっかりと頷いた。
「うん」
「えへへ。そっか、ゆきの。やっと行人と子作り出来たんだ」
「うわ?ちょっと、ゆきの?」
 行人に四肢を絡み付かせて、ゆきのが下から行人に抱き付いた。
「ゆきの、行人の赤ちゃんが産めるんだね」
 行人の胸に頬擦りしながら、ゆきのが幸せそうに呟いた。
「そ、そりゃいつかはそうなるんだろうケド……」
「え?だってこれが子作りなんじゃないの?行人」
 不思議そうな表情を浮かべるゆきのに、行人がバツ悪そうに頬を掻いた。
「えっと、ボクのを今入れてるゆきののお腹に入れなきゃなんないかな?」
「白いおしっこの事?」
「いや、おしっこと言うか。本当は精子って言うんだケドね」
「じゃあ、行人。ゆきののそれを中に出してよ」
「いや、出せと言われても……」
「?」
 眉根を寄せて覗き込んでくるゆきのに、行人が小さく溜息を吐いた。
「えっと、まだ痛いよね?ゆきの」
 痛さで緊張しているのか、行人はゆきのにぎちぎちに締め付けられていた。萎えた瞬間に潰されそうな膣圧だった。

「そ、そりゃ痛かったわよ。だから、行人も早くゆきのに――あ……」
 行人に射精させた事を思い出したゆきのが合点が行った声を上げた。
「で、でも。行人はその方が気持ち良いんでしょ?だったらゆきのは我慢出来るから大丈夫だよ?」
 動き出そうとするゆきのを、行人が抱き締めて動きを封じた。
「い、行人?」
「ボクはこの儘でも十分気持ち良いから、ゆきのは動いてまでして痛い思いしなくて良いよ?」
「も、もう痛くないから――、きゃっ!?」
 繋がった儘の行人が布団に倒れ込み、一緒に布団に寝かされたゆきのが驚いた声を上げた。
「それに、ボクだってゆきのを長く感じていたいしね」
「あ、う……」
 行人にぎゅう、と抱き締められ、ゆきのは行人の腕の中で思わず俯いた。
 行人が掛け布団を掛けると、ゆきのと二人で添い寝をしている様に見えた。

 しかし、その布団の中で、二人の繋がった場所から送られるドロドロに煮えたぎった性快感が二人の理性をゆっくりと溶かし始めていた。
「はぁ、はぁ……。い、いくとぉ、これ、切ないよぅ……」
 行人の腰に巻き付いた脚の緩急の動きと腰の揺れを交えながら、ゆきのが行人に泣きそうな表情で訴えた。
 痛みがまだ疼痛として残っているものの、既に性感に目覚めたゆきのの膣は十分な快楽を引き出せるまでになっていた。
 付け加えるならば、その快楽に抵抗するには、ゆきのの精神はあまりにも未熟過ぎていた。
「もう、大丈夫?ゆき――っぅわ!?」
「大丈夫なんかじゃないわよっ!!」
 漸くゆきのの痛がっている様子が変わったと思った行人が声を掛けようとした瞬間、布団を弾き飛ばしてゆきのが繋がった儘で勢い良く身を起こした。
「いいいい、いくとぉおおぉっ!!覚悟しなさい!!」
「はいぃっ!?ゆきの!?」
 怯える行人の前で、血走ったゆきのが寝た体制の儘の行人の右太腿を両膝でホールドし、左太腿を抱き締める形で持ち上げた。
「お母さんに教えて貰った技で、行人のおちんちんが干乾びるまで搾り取ってやるんだからっ!!」
「えぇっ!?ちょっとかがみさん、ゆきのに何を教えてるんだよ!?」
「オラオラ、行くわよ行人ぉ!!」
 行人の突っ込みすら無視して、宣言と同時にゆきのの腰が動き始めた。
「うわわわっ!?ゆ、ゆきの!?」
「はぁ、んっ、あ、あっ、あぁ!!」
 ぬちゅっ、ぬちゅっ、と、ゆきのの蜜壺が行人のペニスにむしゃぶりつく音を立てていた。行人の根元までゆきのの割れ目に完全に埋没させられる貪欲な動きが行人の肉棒に容赦無く襲い掛かった。
 小柄な体格とは裏腹に、体力のあるゆきのが全身を使って行人の脚を強制的に開かせる。
「ひぁああっ!?ま、待って!!ゆきのっ!!」
 普通ならば上に反る行人のペニスはゆきのとの結合で下にやや反らされ、ゆきのの膣壁との間に押し付けられて激しい摩擦を生み出せられていた。
「ふぅっ、ふぅっ、はぁっ、はぁっ!!」
「は、激し、過ぎぃ――っ!!」
 ゆきのの太腿に挟まれた行人の右太腿はゆきのの愛液でベトベトに汚されていた。それが潤滑油になり、ゆきのの腰の滑りがより一層スムーズになる。
 周囲に撒き散らされるゆきのの性臭に、ゆきの自身が中てられてしまっていた。行人から得られる快感に、善がり狂ってしまっていた。
 責められる行人には、布団を掻き毟って耐える事しか出来なかった。
「あ、あぁっ!?で、出る、出ちゃ――、ふぁあっ!?」
 ビクビクと、行人のペニスが脈動した。そしてその幼い胎内に、初めての子種が放たれた。
 が、
「あぁっ!?ちょ、ちょっとゆきの、ストップ!!もうボク出たから!!」
「あ、あっ、あっ、あっ!!」
 目の前にまで迫った絶頂に、ゆきのはまだ達していなかった。射精中の敏感になった行人のペニスに、ゆきのの膣がトドメを差した。
「ひぃあぁっ!?」
「ああぁぁああぁぁんっ!!」
 限界の行人に続いて、ゆきのが果てた。
「んーっ、んーっ!!あぁあっ!!」
「くぅ〜っ!!」
 ゆきのの膣が、オルガスムスの波に合わせて行人を断続的に締め上げた。尿道に残っている精子の一滴すらペニスごと吸い上げられる。そんな強烈な締め付けだった。
「はぁ、はぁ……。引っこ抜かれるかと思った……」

何とか身を起こし、行人がゆきのから幾分萎えた分身を引き抜こうとして、
「あ、あれ?ぬ、抜けない?」
「えへへ〜。言ったでしょ?全部出して貰うんだから」
 行人の股から身を乗り出して、繋がった儘のゆきのが不敵な笑みを浮かべていた。
「お腹にね、力を入れるとおちんちんが抜けないんだって」
「え?――痛だだだだっ!?」
 試しに抜こうとするものの、その瞬間に亀頭が抜けそうな激痛が行人に襲い掛かった。
「ねぇ、行人?」
「な、何でしょう?」
 青くなる行人に、迫ったゆきのがそっと目を閉じた。
「へへっ、大好きだよ」
「――っ!?」
 行人の顔が真っ赤になり次にかくん、と首を落とした。そして、ゆきのの顎にそっと行人の指が添えられた。
「ん、ちゅ、ん……」
「ちゅ、ふぁ、あ……」
 唇から漏れる、キスの音が二人だけの居間に響く。まだ幼い二人には、背伸びが過ぎた大人のキスだった。
「あ、行人?」
「う……」
 腹部に感じた脈動に、ゆきのの瞳が妖しく光った。言い訳の利かない事態に、行人の視線が気まずそうに泳ぎ始めた。
「大丈夫よ、行人。ちゃんと休憩挟んであげるんだから」
「は、ははは……」
 にちゃ、とゆきのが腰を動かし始める音に、行人は乾いた笑いしか返す事が出来なかった。
「えへへ〜。いっぱい、い〜っぱい子作りして、た〜くさん子供作ろうね。行人?」
 行人に体を預けながら、ゆきのは底抜けに幸せな表情を浮かべるのだった。