今日はかがみさんの家で晩御飯を頂くことになった。
なんでも、ゆきのたちがちかげさんの家に泊まるから寂しいとのこと。
ゆきのは、「どうせ母さん料理作らないから、行人が作んなきゃいけないでしょうね」と言っていたけれど。
結構楽しみにしてたのに……。

しかし今、かがみさんは一人で作っている。聞いた話とは大違いだった。
ゆきのの勘違いかな。すごいやる気満々で台所に行ってたよ?
だけどまぁさすがに何もしないのも気が引けるよね。
一応手伝おうとしたけれど、「行人ちゃんは居間でゆっくりしててね〜」と言われちゃった。
気にはなったがさすがに本人がいいと言っているんじゃあしょうがない。
仕方ないから紅夜叉の最新作でも読みながら待っていよう。
ゆきのの家には全巻揃っているみたいだし。

「……ん……はぁ……くぅ……」
読み始めてからしばらくたつと、うめき声のようなものが台所から聞こえてきた。
少し心配になり、台所の方に声をかける。
「かがみさん、だいじょうぶですか?」
「ふぇっ!?だ、大丈夫よ〜。た、玉ねぎが、目にしみちゃっただけだから〜」
声をかけようとした瞬間に返事が聞こえた。
どうやら杞憂だったみたい。
まあ少し不安は残るけど大丈夫そうだし。
続きでも読んで待っていよう。

「……あっ………くふっ………」

……うん、待っていよう。


「お待たせぇ〜特製カレーよ〜」
ちょうど読み終わる頃には、晩御飯が運ばれてきた。
かがみさんはお盆の上に乗せた料理を、テーブルの上に並べている。
どうやら台所は暑かったみたいで、少し汗ばんでいるように見えた。
着物の胸元も少しはだけていて、微妙に目のやり場に困る。
口の中が乾いてしまったので、落ち着くためにつばを飲み込もう。
……よし、大丈夫。

あらためてテーブルの方を見る。
そこに並べられた皿からは、いい匂いが漂っていた。
うん、やっぱりカレーが一番だよな。

「おいしそうですね」
別にお世辞でも何でもない、本心から出た一言だった。
それを聞いたかがみさんはまんざらでもない表情。
「ふふ、ありがとう〜。愛情たっぷりなのよ〜」
「あ、愛情って…」
頬を染めながら、うれしそうに話すかがみさん。目もキラキラ輝いている。
愛情っていう、直球な表現に少し恥ずかしくなってしまった。
でも、なんか愛情たっぷりって言ったとき、目がギラッと光ったような気がするけど。
なんか、ほら。蛇が獲物見つけたときみたいな。
……ま、気のせいだよね。

「やだ〜行人ちゃ〜ん。そんなに照れないでよ〜」
頬に両手をあてて、いやんいやんという風に体をくねらせている。
どうやら少し考えていた様子が、照れているという風に見られたみたい。
事実ではあるけど、あらためて言われるとさらに恥ずかしくなる。

「そ、それはそうと食べましょうよ」
「そうね〜じゃあ食べましょう〜」
さて食べよう、とするもののスプーンが見当たらない。
かがみさんの方を見ると、笑顔でスプーンを持っていた。
一本だけ、両手でしっかりと。

「あの、スプーンは?」
そう聞くと申し訳なさそうな顔をするかがみさん。
若干、笑みも混じっているような気もしたが、気にしない。

「ごめんね〜一本しかないのよ〜」
腑に落ちないけれど、信じないのも失礼なような気がする。
ゆきの達がいるときはどうするんですか?なんて聞いちゃいけないんだろうな。
やぶをつつく必要はないはず。

「それじゃあどうするんですか」
大体想像できるけど、一応確認する。思いつく答えは一つしかないけど。
「だからね〜。こうするの〜」
そう言いながら、ボクの隣に正座するかがみさん。
座るなり寄りかかって、左腕をボクの右腕に絡める。
あまりの自然さに一瞬何が起きたかわからなかった。

「え?」
「はい、あ〜ん」
ボクの皿からカレーをスプーンで掬い、口の前に差し出した。

この状況は…なんかデジャブ。しのぶにもされた思い出が…。
あの時はヤバかったなぁ〜。後ろから抱きつかれて、胸が背中に当たって煩悩を振り払うので精一杯だったし。
あ、そういや腕になんか柔らかいものが当たってるなぁ、なんか気持ちいいや。

って、現実逃避してる場合じゃなかった!

「い、いいですよっ」
どうにか腕を放させようと、当たらないように動かした瞬間。
さっきよりもがっちりとホールド。
ぷにゅ。
感触がさらに伝わってくる。
「ならどうするの〜?一本しかないのに〜」
ボクの腕をさらに体の方へ引き付けながら、上目づかいで見つめるかがみさん。

頭の中では、一本しかないならそれしか方法がないことはわかっていた。
しかし、そんなことより体の一部分に意識が集中している方が、今は問題だ。

さっきは片方の胸に当たっているだけだったけど、今はちょうど胸の間に二の腕が収まるような感じになっている。
正直そんなにないと思ったけど、結構感触が。こう、左右から伝わってくる柔らかさ。
なんというか、その、弾力が。見かけじゃわからないってのがよくわかった。
後、さらに言えば手の部分がちょうど、太ももの部分に当たっている。
もう少し上だったら、かなりきわどい位置。…要するにアソコ。
少しづつ考える力が削られていくのがわかるけど、どうすることもできない。どうする気もない。
……でも、まあ一応言っておいた方がいいよね。

「あ、あの…腕に…」
「どうしたの行人ちゃん?」
かがみさんは笑顔で聞き返した。
どうやら無意識でやっているのか、気づいてないようだ。
それなら好都合…いやいや別にやましい気持ちはないからいいよね。
うん、そうだ。

「いえ、何でもないです」
まぁ、自覚してないんだったらこのままでもいいかな…。気持ちいいし。
「変な行人ちゃん。ほら、口あけて〜」
頬をほんのり赤く染めながら、無邪気に微笑まれると、ついつい見惚れてしまいそうになる。
いつも若く見えるけど、今は下手したらゆきのより若く見えるなぁ。
……本当にこの人ボクより一回り年上?

「ほらぁ〜、あ〜ん」
もう観念して、口をあける。おそらくもう何を言っても無駄なんだろう。
それだったら、いっそ楽しんだ方がいいに決まってる。
「……わかりました……あ、あーん」
それでも、思ったよりも恥ずかしいぞこれ。
「あ〜ん」
スプーンが口の中に入り、口を閉じる。
すると、かがみさんはゆっくりとスプーンを引っ張り、口の外に出す。

そして、よく噛む。
牛乳でも入ってるのかな、結構まろやかな感じ。
辛さもちょうどいいし。なかなか好みの味だ。

「おいしい?」
「あ、はい」
「よかった〜」

満面の笑みを浮かべながら、次のカレーを補充し、また口に。
かがみさんはひたすらあーんしてくる。
最初のうちは恥ずかしくなったものの、だんだんと楽しくなってきてしまった。
慣れって恐ろしい。

しかしたまに、口を閉じようとした瞬間にスプーンをひっこめられた時もあった。
されるとわかるけど、あれはすっごく情けない。
ちょうど、椅子に座ろうとしても無かったから尻餅をついてしまった様な感じ。
なんともむず痒い。
自分の意思で食事ができない状況は、餌付けという表現の方があっているような気がする。


そのあとも、かがみさんによる餌付けは続いた。

結構食べてから気づいたのだが、身体の中が燃えるように熱い。
カレーを食べているせいかとも思ったが、そこまで辛くない。
なのに、汗が滲み出てくる。

途中でかがみさんに汗を拭いてもらったりしたが、汗は一向に止まる気配がない。
「行人ちゃん、汗すごいわね〜」
手ぬぐいはどんどん汗を吸っていく。

そして、食べ終わる頃には汗はだいぶ引いたものの、熱いという感覚が違うものに変わっていた。
簡単に言えば、ムラムラしてきた。

いつの間にか股間がヤバいことになってしまっている。
ぶっちゃけズボンを持ち上げるほどにまで。
おかしい、どうして?
どうにか見えないようにしたいけど、どうしよう。
胡坐をかいている状態だから、隠すのはほとんど無理だし。
シャツの端で少しくらい隠れているのは、気休め程度。

カチャ。
スプーンを置く音が聞こえた。

頭の中で、落ち着けボク、と思っても効果はなかった。
むしろさらに元気になってしまうくらいだ。
もしかがみさんの視線が下に動こうものならすぐばれる。
どうしようかと考えても、いいアイデアなど思い浮かばない。

隠そうと腰をもぞもぞ動かしていたのが、仇になった。

「あら、これどうしたのかしら〜」
気付かれてしまった。ヤバい。
どうにかして離れようとするものの、腕は思ったよりがっちりと捕まえられていたようだ。
腕は抜けず、さらに、かがみさんの胸元あたりがさらにはだけてしまった。
赤みがかった肌が見えてしまう。さらには胸の谷間も。
かがみさんは気にするような様子もなく、すり寄ってくる。
そして、いたずらっこのような笑みを浮かべながら、右手でボクの股間の部分を触り始めた。

「ちょ、ちょっと何してるんですか!?」
思わず腰が引けてしまい、逃げるようなかたちになりなんとか右手は離れたものの。
「行人ちゃんは触られるの、いや?」
かがみさんは、それを見て伏し目がちになってしまった。

くっ、どうすれば。
触られるのが嫌と言えればいいんだろうけど、この状態ではちょっと……。

「え、と」
どう声をかければいいんだろ。まさかもっと触ってください、なんて言えないし。
でも、それもいいかも……。って、駄目だろボク!
ああ、もうどうすればいいんだよ。

「……ふふ♪驚いたぁ〜?」
「へ?」
顔をあげたかがみさんは、実にいい笑顔だった。
なに、だまされたのこれ?
「もう行人ちゃんたら〜照れちゃって可愛い〜」

なんだかなぁ…。
「こ〜んなふうになっちゃってるのに」
ぴんっ。
「うわっ!?」
いきなり股間に刺激。いつの間にかまた、手がそこにあった。
どうしたんだろ、指ではじかれた?

「ねぇ?どうしてほしい〜?私は正直な子って好きなんだけどなぁ〜」
今度はズボンの上から撫でまわす。
ちょうどいい感じの力具合だ、やばい。
されればされるほど、勃起していく。
このまましてもらいたくなる。けど、さすがに言えない。

はいともいいえともいえずに口ごもる。
その様子を見ていたかがみさんは、手をスッと離した。
これは助かったと思うべきか、残念だと思うべきか。

「まぁ、今すぐじゃなくてもいいけどね〜」

そう言いながらボクの上に座る。

「な、なんでいきなり座ってるんですか!?」
「え〜いやなの〜?」
「別にいやっていうわけじゃないですけど…、じゃなくて!な、なんでですか?」

ちょうどボクが胡坐をかいている上にいるわけだから
必然的に胸が見えそうになるわけで。
おしりがちょうど股間のあたりに当たってしまう。

「まだ行人ちゃんしか、食べてないのよ〜私もお腹空いたぁ〜」
「……そういえばそうでしたね」
まさか一人で食べてください、なんていえる状況ではなく。
そんなことよりも今は煩悩を追い払うので精一杯だった。

「だから〜はい」
差し出されたスプーンを受け取る。
「ちゃんと食べさしてね〜」

あまりに無邪気な笑顔だったので、さっきまでの邪な考えは頭の隅に追いやられた。
もっとも頭の中の半分近くを占めていたけれど。

「……わかりました」

返事をしつつスプーンでカレーを掬おうとする。
股間の感触は全力でチラ見しつつ。
無視なんてできません。

「このカレーまろやかだったでしょう〜」
かがみさんが話しかけてくる。正直話をしているほうが楽かもしれない。
少しでも気が紛らわせれば耐えられる、はず。

「あ、はい」
「じつはね〜隠し味が入ってるの。何だかわかる〜?」
今はそんなことを考える余裕なんてほとんど無い。とりあえず定番の答えを言っておけばいいかな。
「牛乳じゃないんですか?」
「残念〜」
「え?」

違ったの?まろやかな味にするためには牛乳しかないと思ってたのに。
じゃあなんだろう。なんかの果汁とかかな?
あ、ヨーグルトとかケフィアとかか。
「私の母乳〜」
「ぶっ!?」

一瞬自分の耳を疑った。え〜と、ぼにゅう?母乳だよね。あの、胸から出てくる。
まさか、とは思ったけど、冗談には聞こえなかったし。

ちらっと胸の方を見る。そういえば、子供を産んでいれば母乳がでるんだっけ。
でも、カレーの中に入れたってことは、自分で搾った、ってことだよね。

そう考えながら、胸を見ていたらあることに気づいた。
肌と布の間に隙間ができている。
影になっていてよく見えなかったけれど、目を凝らすとそこには乳首が見えた。
そんなに大きくはないけれど、どう見ても固くなっている。

布がそれに押し上げられているんだ。
……もしかして、かがみさん興奮して乳首がたっちゃってる?

「……い〜くとちゃ〜ん?ど〜したのかしら〜」

声を聞いた瞬間、我に返った。あぶないあぶない。
今はかがみさんが前を向いたままだから大丈夫とは思うけど、もし声をかけられなかったら振り向かれて気づかれてたかも。
僕がじっと見ていたことを…。

今のうちに落ち着いて、さっきのことは忘れよう。うん。
けど、やっぱり視線は胸にいってしまう。
でもまあこっち見られなければ大丈夫なはず……。

「ふふ、行人ちゃん目がやらしい〜」
そう思った矢先。
かがみさんは顔だけこちらの方に向け目の端で見られた。
胸の方に向いていた視線をあわてて逸らす。
「あら〜今どこ見てたのかしら〜?」
まさか胸を見ていた、と素直に言うわけにもいかないよな。

「い、いや別に」
「ふ〜んそうなの〜」
そう言いながら前を向き、胸元を隠してしまうかがみさん。
ああ、見えなくなっちゃった。できればもう少し見たかったけど。
……あ、でもまた見えそう。
いやいやこれ以上見てたらばれちゃうしな。
ちゃんと前を向いて、と……。


あ。眼が合った。

「やっぱり〜。行人ちゃんのスケベ〜」

ばれてしまった。
前を向いたと思っていたのにいつの間にか振り向いている。
しまった、フェイントだったのか。

「さっきもお皿並べるときに見てたわよねぇ」
もちろん見ていたけど、そんなこと言えるわけも無い。
何とか誤魔化さないと。
「い、いや、そんなことは」
「……それにしても暑いわね〜」
いきなり話題が変えられた。別に怒っているわけじゃないみたいだ、よかった。
と思っていると、かがみさんはさっきよりも更に胸元をさらけ出している。
さっきのがチラリズムなら今はモロイズム。
何を考えているんだボクは。

「ねぇ行人ちゃん。さっき言ったこと覚えてる?」
「え?」
眼は胸に釘づけになったままで、返事をする。
さっき言ったことって。
だめだ、頭が混乱しててよくわからない。
「素直な子は好き、…って」

思わずつばを飲み込んだ。