家事をサボって逃げ出したお姉様を探して歩いていると、道の真ん中で人だかりが出来ている。
「うゎぁ〜カワイイ!」
「ホントだ!キラキラして綺麗だねぇ〜」
集まってみんなは何を騒いでるのかしら?
「そうでしょ!行人がくれたの!」
何ですってぇ!!!
輪の中に飛び込むと中心にはすずが居る、みんなはポニーテールの根元に結われる綺麗な髪飾りを見ていた。
それは太陽の日射しをキラキラとした虹色の光に変える、輝く2つの宝石を付けた髪止め。
「ちょっと、すず!それどうしたのよ?」
「行人がいらないって言うから貰ったんだぁ、似合うでしょ?」
「私に譲りなさいよ!」
「ダメだよ、行人が私にくれたんだから」
羨ましかったからちょっと言ってみただけよ。
「そうだあやね、家にやまぶどうがいっぱいあるんだけど来ない?」
「やまぶどう?何でそんな物があんたの家に有んのよ?」
「昨日ゆきのと採りに行ったんだけど、途中から行人が意地になっちゃってさ」
「ふぅ〜ん、まあ行人様に逢えるなら理由なんて何でも良いわ」
家に向かう間もすずの髪飾りがちらちら目について嫌みの一つも言いたい気分。
「ホント、あんたは良いわよね。家に帰ればいつも行人様と2人っきりだし、そんな綺麗な髪飾りも貰えるなんて羨ましいかぎりだわ」
「そうかな?でもこれを綺麗だと言ってくれるのは嬉しいな、ありがとう」
まちがったぁぁ!!!これじゃ素直な感想ない!単にすずが羨ましいって言ってるだけだ……あぁ、また気が滅入るわぁ〜。
「でもさ、行人はいつか帰っちゃうんだよね。それを考えるとさぁ……」
「すず………なに言ってんのよ!行人様が居なくなるのが嫌なら、あんたが島を出たくないって思わせれば良いだけじゃないの!」
「……そっか、そうだよね!あやねの言う通り、行人に島や私たちのこともっと好きになってくれるように頑張れば良いだよね!」
「そうよ!簡単なことじゃない、ホントにすずは食い気ばっかりで頭の中は空っぽなんだから」
「ひど〜い!…でも、スッキリした。ありがとう、あやね」
「なっ!?勘違いしないでよね、私は行人様にずっと島に居て欲しいだけで、別にすずの為に言ったんじゃないわよ」
「そんなの分かってるよ〜、あやねはホントにひねくれ者だね」
「何ですってぇー!!!」
久しぶりにすずと言い争いをしながら歩く時間は楽しかった。
でもふざけて身を寄せるすずの弾力がまた一段と増している事には怒りを覚える。
△▲▽▼△▲
久しぶりに自分の荷物を整理していると、騒がしい中にも楽しさが感じられる2人の笑い声が近づいて来た。
「ただいま〜」
「おかえり、あれ?あやねの声が聞こえてたけど一緒じゃなかったの?」
玄関が開いて元気な声を聞かせたのはすず1人だけ、疑問と共に身構えるとやはり縁側の方から飛び込んで来た。
「行人さまぁ〜!」
「ちょっと、あやね!放して」
「そんなに私に逢いたかったんですか?言って下さればいつでも逢いに来ますのに」
とりあえずあやねを隣に座らせて、散乱したバッグの中身を片付けていると何か獲物でも狙っているのか、射すような視線が隣から感じられる。
「……何?」
「なっ!何でもありませんのよ!!さぁ行人様は片付けの続きを」
それを見て、少し申し訳なさそうな顔ですずが尋ねてきた。
「行人、これもう1つないの?」
「その髪を結ぶゴム?」
「そう、あやねが欲しいんだって」
「ちょっと、すず!!!違いますのよ行人様、ちょっと良いなぁと思っただけですから気になさらずに」
慌てて話すあやねを見て、あぁ欲しいんだなぁと直ぐに分かった。
確かに2つに結んだあやねの髪型にプラスチックのボンボンが付いたヘアゴムは良く似合いそうだ。
「ごめん、それ1つしか無いんだ」
「そうなんだ…」
「うん、妹のなんだけど偶々荷物に紛れ込んでたみたいで……ごめんね、あやね」
「…へっ?」
話を聞いているとばかり思っていたあやねは、ストラップから外れたイルカを手に取ってじぃーっと見ていた。
「あぁ、それ取れちゃったんだ」
「行人様、このさしみを細くしたような魚は何て言う名前なんですか?」
「イルカだよ、ちょっと見せて………もうチェーンが真ん中から切れて修理は無理そうだな。携帯も使うことないし、まあ良いか」
「それ、いらないんですか!?」
あやねのイルカを見つめてキラキラ輝く目が眩しい!
確かにイルカ本体は無事だけど、こんな壊れた物が欲しいのかな?
「……あげようか?」
「ホントに!!」
「…うん」
「ヤッタァァ!!!!行人様から貰っちゃったぁ〜!!」
「ちょっとあやね!ぶどう!!……帰っちゃった」
次の日あやねのリボンにはシルバーのイルカが空を泳ぐようにぶら下がっていた。
「あやねってそんなにイルカが好きだったのかぁ」
「ハァ……行人はダメダメだね」
「えぇぇ?!?!」
行人が言葉の意味を理解してくれる日はいつ来るのかなぁ………ねぇ、あやねもそう思うでしょ?
―END