「これで良かったのかしら…?」
 走り去る行人の背中を見ながら、まちはあやねを静に見ていた。
「えぇ、私はすずをギャフンと言わせられればそれで良かったのよ。行人様に近付いたのも最初からそれが目当てだったし、だから私は満足してるわ…」
 澄ました表情で宣うあやねに、まちは肩で息を吐く。そして、自分よりも少し高いあやねの頭をその胸にそっと掻き抱いた。
「お姉さま…?」
「馬鹿ね…。本当は行人様の事が好きなのに…」
 まちの言葉に、あやねの肩が僅かに震えた。
「な、何言っているのよ?お姉さま。言ったでしょ?私はすずに勝ちたかっただけで、行人様の事は何とも――」
「……馬鹿ね」
 あやねの言葉の先が、まちの胸でやんわりと塞がれた。
「だったら、どうしてそんなに泣いてるのよ…?」
 強く、必死に服を掴んでくるあやねを見下ろしながら、まちは幼子をあやす様に頭を撫でた。
「だって、行人様はすずの事が好きなんですもの。それに、すずも行人様の事…」
「そうね…。だけど、行人様はあやねの事も十分に好いてくれていたわ…」
 家族として、妹として接しようとした意識が、皮肉にもすずを女の子として見てしまう結果になった行人。
 たとえそれが行人の逃げであったとしても、あやねを相手に選んだ事はあやねをちゃんと女の子として見ていた証だった。
 少なくとも、行人の隣に居た間はあやねは間違い無く行人の恋人であったのだ。
「うぅ…。ふうぅっ…」
「我慢しなくても良いから…」
 きゅっ、と。まちは妹を抱き締めた。
「うわぁぁああん!!」
「いっぱい泣きなさい…。今日は、いくらでも付き合ってあげるから…」
「行人様、行人様ぁ…」
 ぽろぽろと、零れた涙がまちの胸に落ちた。
 その涙も、想いも全部受け止める様に、まちはいつまでも黙ってもあやねを抱き締めていた。

仕様も無い妄想だが、ラストがこんな感じになる気がしてならない…