「う〜ん……」
 寝床となった居間に敷かれた布団の上で、鼻に塵紙を詰められた少年は二人の少女に両側から挟まれる格好で唸っていた。
 そんな少年を、いつもは頭の両端で結っている髪を解いた襦袢姿の少女が覗き込む。
「ふふふっ、行人様ったらまだのぼせてるのかしら……?」
「むぅ〜。あやねズルいよ、行人と一緒にお風呂に入っちゃうなんて」
 クスクスと笑う少女に、今度は反対側のこちらも普段は頭頂で一つに束ねている髪を解いた寝巻の浴衣を羽織った長髪の少女が口を尖らせた。
「ちょっとくらい良いじゃない。それに、何だかんだですずも一緒に入ったでしょ?」
「そ、それはそうだけど、でもいきなりはダメだよ。行人だって驚いちゃうもん」
 何食わぬ顔で返すあやねに、すずが尚も不満の眼差しを送る。
「それに、最近は行人ずっとあやねの事ばっかり気にしてたし……」
「ん?何か言ったかしら?」
「……何でもない」
 すずの呟きを聞き損ねたあやねが訊き返したが、何となく知られると癪な気がしたすずは拗ねる様に顔を背けた。
「あらあら、勝手にお餅になっちゃって。変なすず」
 気にした風でもなく、あやねは行人の布団に潜り込んだ。行人を起こさないように器用に行人の腕の内側に入り、肩を枕にしたあやねは取った腕を胸の上で抱き締めた。
「ふふっ、中々寝心地が良いわね。これなら良い夢が見れそうだわ」
「ち、ちょっとあやね!?行人に何してるの!?それに、行人が起きちゃうよ!?」
 行人の布団で目を細めていたあやねに、すずが焦った様な声を上げた。
「大丈夫よ、行人様も良く寝てるし。それよりアンタのデカい声の方が余っ程五月蝿いんじゃなくて?」
「あ、う、うん……」
 口を閉ざして俯くすずに、あやねが「ふぅ」と溜め息を吐いた。
「ホラ、行人様の反対側が空いてるでしょ?」
「あ……」
 あやねの言葉にはっとしたすずが、モゾモゾと行人の布団に入っていく。
「何よ、やっぱり羨ましかったんじゃないの」
「う〜……。だ、だって今日はずっと行人と一緒だったんでしょ?あやね」
「そうね。行人様が私を追い掛けてくれたし、抱き締めてもくれたわよ?」
「うぅ〜……」
 布団から顔半分を隠してすずはあやねに抗議の視線を送ったが、あやねは行人越しに呆れた表情ですずを眺めた。
「全く、すずは相変わらずお子ちゃまなんだから」
「な、何よう。あやねだって私と三つしか違わないよ?」
「三つもあれば十分よ。ま、アンタの場合はどっちかって言うと中身だけどね」
 行人の胸にあやねが頭を擦り付けながら甘え始めた。
「ふふっ……。行人様の匂いがするわね、良い匂い……。」
「?」
 気持ち良さそうなあやねの真似をしてみたが、すずにはあやねの状態が今一把握出来なかった。
 確かに行人の匂いはしたが、あやねのあの蘯け様を見る限り他に何かがあるのだろう。しかし、その何かがすずには分からない。
「お風呂場で行人様が言ってた事はこの事だったのね」
「??」
 すずが首を傾げるが、あやねはそんなすずを見て小さな舌を少しだけ覗かせた。
「ま、アンタも早く大人になりなさいって事よ」
「うぅ〜、さっぱり解んないよぅ」
「これは恋する乙女だけの特権なんだから、ほほほほ……」