西の森、南の森、東の森、北の森…
どこの森かはわからないが僕は森の中を走っていた。
え?なぜ走っているかって?
それは僕の後ろに得体の知れない何かの影が
迫ってきていたからだ。
…ぷすっ
僕の首に何かがささった。
そう思った時には僕はすでに動けなくなっていた。
それを確認したのか影が正体を現した。
「うふふ。行人様捕まえたー。」
正体はまちだった。
「まち…。追いかけるなら普通に追いかけてくれない?」
「さあ行人様、始めましょ。」
「無視かよオイ…。しかも何を始める気?」
「決まっているじゃない。…愛の儀式を。」
まちは僕が動けないことをいいことに僕を押し倒してきた。そして僕のズボンを脱がし始めた。
「ちょっ…まち!?」
「行人様。私と一緒に…。」
まずい状況だ。しかし
僕が抵抗しょうにも体がしびれて動けない。
もうだめだ…。

そこではっと目が覚めた。
よかった、夢か。
僕は木陰の下で横になっていた。近くには、
トントンカンカンと釘を打つ音が聞こえる。
「お、ダンナ。大丈夫か?」
「うわっ!りん!?」
いきなり横からりんが現れた。
「ダンナ、朝から顔色悪いぜ。もしかして手伝いきつかったか?」
「…へ?」
ああそうか。僕はりんの仕事の手伝いをしてたんだっけ?
「いや、べつになんともないよ。」
「あ、そうか。ならいいんだが…。」
りんはなぜか少し間をとった。
「…ダンナ。ちょっと話いいか?まだ休み時間あるし。」
「え、いいけど…。」
僕はりんとともにある場所に来た。
その場所とはりんが僕に初めて羞恥心を見せた水辺だった。
「…で、話ってなに?こんなところまで来て。」
僕がそう聞くとりんは突然顔を赤らめた。
「あ、いや、その〜…なんというか…えーと…」
りんの顔がどんどん赤くなっていく。
僕はこの時点で嫌な予感がしていた。そして案の定予感が的中した。
「うだーっ!!もう、こうなったらやるっきゃねぇ!!」
りんはいきなり僕にのしかかってきた。
もちろん島一番の怪力の持ち主、僕は身動き一つ取れない。
「り、りん!?な、なにすんの!!?」
「ダンナ…あたいもう限界だよぉ…。」
「はあ?なんの話!?」
そこで僕は夢をことを思い出した。
まさか正夢!?
いや、けど人違うし。でもこの状態は…?
僕の頭はすっかり混乱してしまっていた。
もうだめだ…。

そこではっと目が覚めた。
なんだ、また夢か。びっくりした…。
「師匠!気がついたでござるか!」
「ぬわぁっ!しのぶ!?」
ここはすずの家だ。しかしすずの姿はない。
そして僕はなぜかふとんで横になっていた。横にはしのぶが正座で座っている。
「えーと、僕はなにをしてたんだっけ?」
「師匠、もしや拙者の一撃で記憶がとんでしまったでござるか!?」
「…はい?」
しのぶから聞くには素振りの稽古をしていたら
誤って木刀が手からとんでしまい
僕の脳天に直撃して倒れてしまったとのことだった。ちなみにすずはすでに出かけていた。
「師匠本当に申し訳ない!」
「いやもう大丈夫だからいいよ。んじゃぁ外で練習試合でもしようか?」
「本当に平気でござるか?」
正直、二度も悪夢を見て精神的にまいっていたが、あえて平気に振る舞った。
「平気だよ。じーさんの稽古に比べたら…。」
僕としのぶは木刀を持って外に出た。そしてお互い木刀を構える。
「始めっ!!」
僕の掛け声で試合が始まった。
が、その直後に事件が起きた。
いきなりしのぶが石につまづき僕を押し倒すように倒れてしまった。
夢含め三回目の押し倒しである。
「しのぶっ!大丈夫か!?…しのぶ?」
なぜかしのぶは倒れたまま僕から離れようとはしなかった。
「師匠…師匠からいいにおいがするでござる…。」
ええぇぇぇ!!またッスか!?
またしてもまずい状況になったしまった。
しかもいつの間にか薄暗くなりすずもそろそろ帰ってくる時間となった。
もしすずがこの状態の僕を見てしまったら…
そう思うと僕は気がだんだん遠くなっていった。
もうだめだ…。

そこではっと目が覚めた。
…とりあえず自分のほっぺたをつねってみた。
痛い。
どうやらここは現実世界のようだ。
またすずの家だったが真夜中で横にはすずが寝ていた。
そして枕元には薬の入った瓶がおいてあった。
そうか。へんな夢の原因はたぶんこれだ。

実は僕は最近不眠症に悩まされていた。
どうしたらいいかちかげさん相談するとある薬をくれた。
「まだ試作段階ですがもし良かったらどうぞですの。」
その名も「三連式夢見睡眠薬」。
すこし…いやかなりうさんくさかったが
ないよりましだし、ちかげさんにも悪いので
もらって帰ったのだった。

しかし所詮は試作品。どうやら効きめは短いようだ。
「しかたない…。いかがわしい夢を見ないことを祈ってもう一度のむか…。」
僕が薬をのもうとしたその時、
「むにゃ〜行人〜。」
すずの寝言が聞こえた。ふとすずを見ると
すずの寝巻きが寝相の悪さではだけていた。
僕はたまらず花火のように鼻血をだして倒れてしまった。
そして僕は再び深い眠りについていった。

目が覚めて〜行人の幻想〜 完