看病されて


――――僕に知らせが来たのはあやねが倒れて数十分後の事だった。
からあげさんに稽古をつけてもらってる最中にしのぶが知らせに来てくれたんだ。
おばばの所に居るらしく、僕は稽古を中断してあやねの所へ向かった。
そこには、静かに目を瞑り横になっているあやねの姿があり、
あやねををすずを始めとする村の人たちが囲うように座っていた
 「あやねは…大丈夫なんですか…?」
ドクンドクンと心臓の音が高鳴っているのがはっきり分かる
そんな中、僕はおもむろに口を開き、おばばに尋ねた――――
 沈黙の中、おばばが口を開き、静かな声でこう答えた
 「風邪じゃ…」
「風邪…」
別の意味で僕は黙り込んだ
 「風邪って…重症なの…?」
「いいや全然。すぐ治るわい」
その場にいた僕を除く全員がうんうんと縦に首を振った
そして皆部屋から出て行った。出て行く際に
 「ま、日頃の行いが悪かったんだ。それの罰が下ったんだよ」
と、りんが言い残して去っていった。
 「そういう事だから、あやねをよろしくね。行人」
「え?ええ!?僕!?」
「うん。だって行人暇だもんね。皆仕事があるから」
「いや…僕にも仕事が…」
 微笑を浮かべて去っていくすずに必死に訴えたが聞いてもらえなかった。
おばばもどこかに消えて、部屋にはあやねと僕の二人きりとなった。
 「あのさ、何で風邪引いたの?」
「……」
「起きてるんでしょ?バレバレだよ」
少しの沈黙の後、あやねが口を開いた。
 「昨日…夜寝てた時に、いつの間にか服が脱げちゃって裸で寝てて…布団もはだけてて…」
「…それが原因?」
「うん…昨日寒かったから…」
原因のくだらなさに溜息が漏れた。
 「まったく……心配したんだからね?あやねが倒れたって聞いて」
「…ごめんなさい…」
ドキッとした。目に溜まった涙を拭いながら謝ってきたあやね。
いつもは見られない素直さ。その双方に僕はドキッと心拍が異常なまでに高まるのを感じた。
 「…で、体調は良くなったの?」
「うん、大分楽になった…」
「熱もそんなになさそうだね」
あやねの額に手を当て、自分の体温と比べてみる。
まだ少し熱があるが、これくらいならすぐに下がるだろう。
 「心配しなくてもすぐに治るよ、元々そんな大した風邪じゃなかったしね。良かった良かった…」
不意にあやねがじーっとこちらを見ているのに気がついた。
不思議そうな目でこちらを伺っている。
 「ど、どうかした…?」
「…今日の行人様、何だか優しい…」
「え…?あ、いや…そんな事ないと思うよ?普通だよ普通」
何だか今日のあやねは驚くほど女の子っぽくて、可愛い。
病人にこんな事言うのはおかしいけど、でも本当に可愛い。
「そ、それじゃあ、僕はそろそろ帰るから。寝てなきゃダメだよ?治りが遅くなっちゃうからね」
部屋を出て行こうとした時、服を掴まれた。

あやねは頬を赤らめて下を向いている
「ど、どうしたの…?」
僕の質問にただ首を横に振るだけのあやね。
「あやね…?」
それでもあやねはもう一度首を横に振り、黙ったまま。
しばらく沈黙が流れる。するとあやねが顔を上げ、うるうるした目で僕に訴えた。
「行かないで…お願い…」
そして再び俯き、服の袖をさらに強くぎゅっと握ってきた。
「一人は嫌だから…お願い行人様…」
「な、何言ってるのさ。まちもそろそろ帰ってくるはずだし、それに――――」
「行人様じゃなきゃダメなの!!」
僕は勢いで畳に仰向けの状態で倒れこんだ。
あやねの小さな手が僕の背中に回され、胸元に顔をうずめてきた。
「ちょ、ちょっとあやね!?」
あやねは黙ったまま僕の胸に顔をうずめたまま動かない。
僕も身動きをとることが出来ず、倒れ込んだままの状態だ。
「行っちゃダメ…!」
あやねはそれから数十分、黙ったまま僕から離れようとしなかった。

―――――――気付くと、日にちが既に変わっていた。
あやねはさっきの状態でスースー気持ち良さそうに眠っていた。
「やれやれ…」
僕はあやねは布団の上に横にし、上から毛布をかけた。
しばらくあやねの寝顔を見つめていた。その寝顔は、見とれてしまうほど可憐だった。
僕はそのまま、部屋を後にした。

翌日――――
あやねの熱は下がり、風邪も治ったようだ。
前と変わらず、いつものあやねに戻っていた。
少し残念な気もしたけど、あやねはやっぱりいつものあやねじゃないと
そう思った最近であった。