どうして……こんなふうになったんだろう?
いまだに僕は信じられない。
僕の上に馬乗りになったみくるさん。
そして、目の前に広がる顔。

「……あやとクン……、私は今幸せですよ?」

穏やかな顔をしてとっても幸せそうにしている。

しかし、はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁと、みだりに、みだらに呼吸をしている。

顔も真っ赤に染まっている…………文字通り。
そして、目も涙で潤んでしまっている。僕も。はないたい。
けど…、

「そばに……いてくれるだけで…いいんです」

僕の手に触れる、その異様に力のはいった手は冷たかった。
それに、僕の顔にも、ぽたり、と、ものすごく冷たい雫が落ちてくる。

「だから…………」

それは、みくるさんから溢れてしまい、滴り落ちてくる…、





「ほら一緒に寝ましょう。大丈夫ですよまちがいなんて起きませんから。
でもでも〜、もし起きても私はのーぷろぶれむですよ、なんて。
きゃー♪」

大量の血。

ぶっちゃけ鼻血。父様よりすごい。噴出の理由は全く違うけど。
というか正直こわい、その爽やかな表情とアンバランスすぎて。

「あ、もしあっても責任を取れだなんて野暮なことは言いませんよ。
だってそれはお互い合意のうえですからね。二人の結婚式は富士山の上でしましょう、二人だけで。
大丈夫です。その他大勢は祝福してくれますよ、心の底から。
まあ心ない人ばかりですから意味ないかもしれないですけど」

しかもなんか妄想がダダ漏れ。しかもひどいこと言ってるし。ついでにいえば服も脱ぎ始めてる。
なにゆえそんなふうにくねくねしながらぬいでいくの?なんでみんなまい姉様みたいにすぐ脱ぐの。

「まあそれはそれとして、一緒に、寝ましょうよ、ね?」
「とりあえず血まみれになった布団を片付ける方が先じゃない?」

めちゃくちゃ血吸っちゃって。これってもう使えなそうだな。
あれ?みくるさん口を開けて唖然としちゃってる。なんか言ったっけ僕?

「え………………それって…………………。

もしかして!?布団が新しかったらおーけーってことですか!?
ついにこの日が来たんですね!?自分を慰めた夜が何日も続くこともありました!
でも!!そんな日とも今日限りでお別れなんですね!?
さあ、あやとクン!誰もが羨むような熱い夜を、共に冷たく滾る体で過ごしましょう!!」

「そういう意味じゃない―――――――――――っ!!!!」
やばい!眼がマジだ!

ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド

「なにしてんのよ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
ドゴッ!
「きゃっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!?」

みさと!

助かったけどドロップキックはやりすぎ。

「いたた、いきなり何するんですかみさとちゃん。私は病弱なんですよ」

みくるさん、そのぼよんぼよんと揺れている胸は隠してください。
父様より耐性あるとはいえ結構強烈です。
それと胸をおもいっきり張りながら「病弱」なんて言っても全然説得力ないです。
健康的すぎます。

「病弱だったらお兄ちゃんを布団の中にひきずりこもうとして押し倒すわけないでしょ。
それで鼻血を出すなんてバッカみたい。というか、なんで着物が肌蹴てるのよ?」

みさと、張りあわなくていいから。
ぶるんぶるん、っていわせなくていいから。

「だって暑いんですもん。別にあやとクンが来るから準備してたわけじゃありませんよ」
「こんなに体温下げてる癖に何が、暑い、よ。興奮してるんでしょうがどうせ」
「ひゃっ!胸にさわらないでくださいよ!この胸に触っていいのはあやとクンだけです!」

……この場に父様いなくて本当によかったよ。
もし居たら確実に気を失ってただろうし、いろんな意味で。

そういえば雪女一族って興奮すればするほど体温下がるんだっけ。
言われてみれば鼻血も冷たかったような…。

「あやとク〜ン、みさとちゃんがつめたいですぅ〜。心まで冷えてしまった私を温めてくださ〜い」
「何言ってるのよ、雪女でしょ!」

父様大変だったって言ってたっけ。その時の話はみちるさんにイヤっていうほど聞かされたし。
なんでも抱きしめようとするだけで氷点下まで行っちゃうって言ってたっけ。
それでも父様はみちるさんを悲しませないようとしたらしいしね。

本当に漢だよね、父様は。
けどその後の話はすごい甘ったるくて、普段からエロいこと考えてるまい姉様もノックダウンされてた。
どんだけだ。

って、そんなこと思い出してる間にやばいことに!?
辺り一面に氷が浮かんでるよ!しかもつららみたいのが(つららさんにあらず)。
それどころかなんか温度がすごい下がってるし!
あ、鼻水凍った、すご〜い。
じゃない!どうにか丸くおさめないと。

「いつも思うんだけどさ。みさとって良いタイミングできてくれるよね」

だいたい僕の貞操が危ない時。自分で言ってて悲しくなる。

「そういえばそうですね?
いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつも
い〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜つも私の邪魔しますもんね。
な〜んか怪しいですぅ〜?」

あ、なんかみくるさんから負のオーラが……。うわっ、さむっ!?妖力全開!?

「うっ、え〜とそれは……」
コロン
「あ!?」

後ずさりしたみさとから何か落ちたけど…………氷の球?

「みさとちゃん……それって……」
「え、な、なんのこと、かしら?」

あれ?みさとがなんか焦ってるけどどうしたんだ。
みくるさんは知ってるみたいだけど。

「雪女一族に伝わる秘術じゃないですか!?」

そういえば二人とも雪女の家系だっけ。でも秘術ってなに。
そんなもん使ってたの?


とりあえず聞いておこう。
「その秘術ってどんなの?」

「まずは二つの氷の球を作るんですよ、こんな風に。
そしたら両方に同じ波長の妖気を込めるんです。
そうすると片方の周りの風景が映像として、もう片方に送られるんです。」

あ、本当だ。なんか見える。
……あれ?見えるのは家の風呂場みたいだけど……。

「どうりで最近、術の調子が悪いはずです。
このせいで混線してたわけですね!
この前のあやとクンの入浴しーんがみれなかったじゃないですか!?どうしてくれるんですか!?」

「……みくるさん。今なんか聞き捨てならない言葉が……」
「へっ!?…あっ!な、何の、ことですか…?」

慌ててるけどばればれ。道理でいつも風呂場で視線を感じるはずだよ。

「この前のはみくるのだったわけね。あんなうろちょろされてたら邪魔よ、せっかくじっくり覗いてたってのに。
お兄ちゃんの裸を見るのは妹である私だけの特権なのよ!」

「ちょっと待ってみさと。あとで話があるから」

これはもう僕が説教しないと駄目じゃ……

「……………え!?…………それって……………もしかしてプロポーズ!?

お兄ちゃん、私は信じてたわ!かならず最後には私の下に帰ってくるって!
やっぱりそうよね!お父さんはお母さんと兄妹でも結婚したんだから、私たちが結婚しても大丈夫だわ!」

「……黙っててくんない?」

前言撤回。美咲叔母様にお説教頼もう。僕の手には絶対負えない。

「なんや騒がしいな、なんかあったんか?…ってあやと兄ぃやんか!……それにみさきとみくるも居るんやな」

絶妙のタイミングで助け舟が。
みくるさんとみさとみたいに妖術は使わないだろうし、安心できるなあ。

「あ、いくみ。この二人どうにかしてくれない?ちょっと僕だけじゃ無理だからさ」
「……あやと兄ぃがうちを頼ってくれとる!?……これはちゃんすやで」

なんかぶつぶつ呟いてるけどまあいいか。
いくみは島の女の子の中でもかなりすごいんだよね、セクハラが。
僕にはしてこないからありがたい。
もっとも、目の前で女の子にセクハラしないでくれれば最高なんだけど。

「おお♪やっぱええ体しとるやないか〜♪さっすが巨乳姉妹と言われとるだけあるな」
「きゃっ!?なにするのよ、いくみ!」

思ってるそばからなんかやってるし。
みさとの後ろに回って胸揉みまくってるよ。

「やっぱみさとのほうが揉み応えがあるなぁ〜。
こう、もにゅもにゅってゆうええ感じに」
「…あっ……もう…やめ…て……ぇ……」

「……ちっ。これであやと兄ぃを誑かしとるんか……いっぺんもぎ取ったろうかこの乳……」

……聞こえないよ?舌打ちなんて。
あ、標的変えた。

「つ〜ぎ〜は〜」
「やめてください〜いくみさん〜」

胸を押さえながら後ずさりしているみくるさん。
頼みますから僕のときもそんな風に隠してください。

「ふふん♪そんな余裕ぶってられるのも今の内やで♪」
「きゃ――――――――っ!?あやとクン、助けてください!
ってちょっと!下着を脱がせないでくださいよ!?」

見ないようにしとこ。

それから数分後…


「……手が腐りそうや…なにが悲しゅうてあやと兄ぃ以外の体さわらなあかんねん…」

手をタオルで念入りに拭いてるけどどうしたんだろう?
もちろん聞く気にはならないよ、あれは汗なんだからね絶対。

…いくみすごい後悔してるけど…なんかあったのかな?
というか、今すごく不穏な発言があったような気が。

「で、いくみどうかしたの?」
「ああ、そうやった。あやと兄ぃ、りんはんが呼んどったで。
教えたいことがあるゆーて」

ふーん、なんだろう?また大工の修行かな。
別に嫌いなわけじゃないからいいんだけど、ちょっとなぁ……。
まあでもりんさんがいれば大丈夫だろう。

「それであられもない格好で気を失っている二人はどうする?」
「ほうっておいてええんやないか?お疲れのようやし。………………つーか邪魔や」

まあなんというか、裸で倒れてる二人は連れてけないよね。
二人とも恍惚とした表情だけど。
なんで僕の周りにはこういう女の子ばっかりなんだろう。
もうちょっとおしとやかな子はいないのかな。

そんなとりとめのないこと考えながら歩いてたらもう着いてたみたい。

「ごめんくださ〜い」

玄関の戸を開けてあいさつしたけど、誰も来る様子はない。
どうしたのかな?

「あれ?りんさんはどこ?」
呼び出すくらいだからなんか急な用だと思ったんだけど……。

「ん〜ちょっと探してくるわ。そこで待っといてや」

そう言っていくみはどこかへ行ってしまった。
まぁ少しくらい待っても見つからないようだったら僕も探しに行こうかな。

「お〜い、あやと兄ぃ。ちょっと物置に来てくれへんか〜」

あ、いくみの声だ。
でもおかしいな?物置なんて何もないのに……。
なんかあったのかな。とりあえず行ってみよう。

物置の戸は開いたまま。ってことはいくみは中にいるのかな?
一応声掛けてみよう。

「お〜いどうしたのいくみ…」

どんっ!

「うわっ!?」

がらがらぴしゃっ!

いきなりなんだ!?誰かにおされたと思ったら、戸まで勝手に閉まったよ!
しかも開かないし!
ん……よく見ると結界が張ってある。しかもやしろ様級の!
やばいな、くりおねらでもこの結界はやぶれないかも……。

「いくらあやと兄ぃでも開けんのは無理やで。
かんなはんに頼んで人が出入りできんようにしてもろたからな」

「な、いくみ!?なんでこんなことを!

……というかこの結界張ったのカンナさん?あの人そんなに妖力強くないとおもったんだけど」

「ああ、それはこのタオルのおかげやな」

そういっていくみが懐から出したのは何の変哲もない一枚のタオル。
それがどうしたんだろう。

「これはおとんが修行で流した汗を拭いたもんや!
うちの言うこと聞いてくれたら、これをやる約束でな。
そのおかげでカンナはんはすごいやる気になってくれたんや」

「ちょ、ちょっといくみさん!?それは言わない約束でしょう!」

慌てていくみの口を塞ごうとするカンナさん。
瞬間移動までできるなんてどんだけすごくなってるのさ。

というかカンナさんものすごいアブノーマルな趣味をお持ちで。
父様って本当に皆から愛されてるよね、いい意味でも悪い意味でも。

まあそれはそれとして。

「それでどんな約束なのさ……?」

「そ、それは…………」

ん?なんかすごい言いづらそうにしてるけど。珍しいな、いくみがこんな風にしてるなんて。
しばらくいくみは黙ってたけど、真剣な眼差しで僕を見据える。

ちなみに脇ではカンナさんがわくわくしながら見ている。
なんというか「これから修羅場?修羅場?」なんて期待しているようにしかみえない。
さっさと結界解いてください。

「……あやと兄ぃが悪いねん、うち我慢しとったんやで!」

いきなり何?いくみには何もしてないはずだけど。

「いっつもいっつも他の女に鼻の下伸ばしてからに!」

伸ばしてません。というか伸ばす暇なんてないから。
それにもし伸ばしてたら多分まい姉様に拉致られるし。

「あやと兄ぃもそうや!あれか!?胸がおおきいほうがええんか!?
いつもみさとやみくるやまい姉ぇの胸見とるやないか!」

あれは不可抗力、ってかみんなすぐに服を脱ぐから。
胸が大きいのは遺伝だと思う、みさとは例外だけど。
よく考えたら不思議だよね、『絶壁の美咲』って言われてた人からあの巨乳が生まれるなんて。
あれかな?ゆきのさんにも笑われた悔しさで遺伝子が突然変異したのかな?

「うちかて胸があったら脱ぎたいんやで!
でもあやと兄ぃは露出狂よりもおしとやかなほうが好きらしいやないか!
そのせいであたっくするのも躊躇ってたんや!」

「なっ!?」

何故それがばれてるの!?だれにも言ってないのに!
ちゃんとくりおねらにも口封じ……って、それか原因!


ふふふふふふふふふふふふふふ。あとで折檻しとかないとね♪

「「ひぃっ!?」」


あ、やばい。怒りでつい霊力全開。
落ち着け落ち着け僕。あとで怒られちゃうじゃないか。
まい姉様に弱みを握らせるわけにはいかないしね。
そんなことになったら確実に飼われる。

って、しまった!?いくみが気絶しちゃったよ。

「い、いくみ!?大丈夫!?」
「………」

やっちゃたよ、完璧に失神しちゃってるよ。
そういえばカンナさんもいたけど…あ、ちょっと半透明になっちゃてるし。
とりあえず霊力分け与えないと…。

「ん……」

まあこんなもんでいいか。
いつも思うけどなんで人型だとくちびr…

「……大丈夫かよ兄貴」
「うわぁっ!?
……ってなんで、りとがいるのさ?」

びっくりした人の気配なんて感じなかったのに。

「いやー、棟梁に道具とってくるように言われて探してたとこなんだ。
そしたら兄貴がいたから声をかけたってわけよ。
それよりもさ……」

「え、な、何?」

さっきの見られてないよね?
うん、すぐ離れたからOKOK。
大丈夫だよね。

「今さ、カ、カンナとしてた事、しちゃ駄目、かな?」

アウト――――――っ!?
でも、ここでなんとか誤魔化せば。

「ご、ごめん。それはちょっと……」
「……まいの姉御って今どこにいんだ?」
「なっ!?」

やばい、それは即死コース!下手したら死体保存されるし。
というか99%式神にされる。しかも絶対服従。

「い、いいじゃねぇか。べ、別に減るもんじゃないだろ」
「りと?そういうことじゃなくてね?」
「……みさとは?みくるは?」
「そ、それは絶対にやめて!」

あの二人も僕の中じゃかなりの要注意人物、女性としては。
知られたらまずいんだけど。

というより目の前には、みさと、みくるさん、まい姉様よりも危険な、りとがいるわけで。

「じゃあいいだろ?もう我慢できないんだよ」

何がだ、ちょっと待て。

何故に脱ぐ。何故に頬を染める。何故に涙目になる。

何故に恥ずかしそうにする。何故に息を荒げている。

何故に僕の服に手をかける。何故に涎を垂らしてる。


何故に 股 間 の い ち も つ を ぶ ら つ か せ る ?


「兄貴〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
「やめて〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!男同士はいやだ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」




こんな日常ですが、僕、泣いてもいいですか?