母、不幸。

父、不能。

そんな夫婦に生まれてしまった男の子の物語




ねむい、とにかくねむい。
いま僕は目をこすりながら台所で、苦しそうな表情をしている魚を包丁で捌いている。
うわ、なんかぐげぇって鳴いた、母様みたい。

あ、ばけばけが来た。ってことはもう丑三つ時かぁ、どうりでねむいわけだ。
ふと母様をみてみると、

「母様、それ、でんでんだよ」

なんか首をガクンガクンと前後に揺らしながら料理している。
いつ見てもすごいな、なんで寝ぼけながら包丁つかえるんだろ?器用貧乏にしてもすごすぎない?
というか、でんでん切られて喜んでるし。あ〜、なんか眠くて頭がぼーっとしてる〜。

「ん〜?別にいいわよでんでんだし……ったく、お姉ぇ様ったら年々食べる量が増えてるわよ。まいもどんどん成長してるし……」

母様は文句を言いながら、手際よくでんでんを捌いてる。今日もでんでん料理かぁ。おいしいからいけど。

ボクの一日は、母様と一緒に家族全員の朝ご飯を仕込んでから終わる、文字通り。
なんといっても大喰らいの、まい姉様とまち伯b…姉様のせいである。
一人十人前は食べるから大変だ。あのちいさな体のどこにはいるんだろうか?



そんなことを考えているうちに仕込みは終わっていた。
ボクも器用貧乏なんだろう。考え事しながらやってたみたいだし。
でんでんの盛り付けも終わったことだし寝よう。

放置ぷれー?くはー♪ って喜んでるのは見ないフリ見ないフリ。

なんだかんだで作り終わってからすぐに布団にはいった。



紋次郎さんが起こしに来てくれた。あやとー、栗羊羹作って―、とねだりに。
ちづる祖b…姉様にねだればいいのに、なんでボクのほう来るのさ。
なんというか、もうちょっとボクの体の心配してよ。
まだ陽が昇ったばかり。ほとんど寝てないのによく体をこわさないな、って思うね。

やはり父様の睡眠術のおかげだろうか。
これは特別なものらしくてボクだけに教えてくれた。
父様曰く、
「女に教えたらオレが死んでしまうから」
らしい。
理由はわからないけど、その後からあげ様に聞いてみたところ、夜に関係することらしい。
「行人クンはタマナシって呼ばれたこともあったけどね〜。まさかあんな風になるとは思わなかったよ」
そう言いながら昔を懐かしんでた。
そういえば「タマナシ」って何だろう? 今度まい姉様にきいてみよ。

西のぬしでもある父様に一度どうやって編み出したのかきいてみたことがあった。そのとき父様は遠い目をしながら答えてくれた。
「女ってすごいんだよ……いろんな意味で」
それを聞いていた母様は何か不満そうにしてた、よっかかって父様の股に手を置きながら。
そしたら何故か父様は一目散に逃げた。

「あ、待って行人様〜」
その後をすぐにおいかける母様。
なんか桃色の空気が見えるような気がするけど、気のせいだよね。

よくわかんないけどやっぱり仲はいいんだろうな。


思い出している間にも、紋次郎さんは頭をガジガジ噛んでくる。一応ボクより年上なんだから甘えないでほしい。
「紋次郎さん……朝ご飯食べてから作りますから」
「う〜、わかった」
どうやら納得してくれたらしい。いつも思うけど本当に年上なんだろうか?ボクより幼ないんじゃないのかな?

居間に行くと、すでにみんな揃っていた。
「あらおはよう♪あやと♪」
「……おはようございます、まい姉様」
「そんな他人行儀な呼び方しないで。まい、って呼んでほしいわ」
「姉様を呼び捨てにするなんてできないよ」
なにされるかわかったもんじゃないし。
前に一度呼んだら押し倒されたし。ついでに着物を脱がされそうになったっけ。

「それは問題ないわ、お父様はお母様と出会ったときから呼び捨てにしてたんだから。
 三つも年上だったの、これはやっぱり愛がなせることよ!」

父様は母様と姉弟じゃないから、別にいいと思う。
ボク達は姉弟だよ、と言ったことはあるが、異母姉弟だから大丈夫!と押し切られそうになった。
なにが大丈夫なんだろう。

いつもそうだけど姉様はこの話をするとき、特に「愛」という言葉を使うときはすごい強調する。
しかも、かなり気分が昂っている。このときは気をつけなければならない。
アレが始まってしまうかもしれない。

考えているとやっぱり予想したとおり、ボクに密着してくる。
ボクの後ろに回って抱きつくのだが、まち伯b…姉様とちがい胸はおおきくない。
むしろ平べったい、ちなみにこれは禁句。言ったら何をされても文句がいえない。

なんでもこの技はまち伯b…姉様の伝授らしい。
これで父様は落とされたらしいけど、ボクは無事みたい。よかった。

「なにお兄ちゃん誘惑してるのよ!まい!」

そんなことしてると、怒鳴り声が聞こえる。
うわ、みさとが来ちゃってるし。
座ってたみさとが立ち上がると、その勢いで大きな胸がぶるんと揺れる。
それを見て、まい姉様は歯ぎしりして悔しがっている。
なんで二人とも母親とは真逆な体型してるんだろう?不思議だ。

まい姉様とみさとってすごく仲が悪い。

「なによみさと。妹はちゃんと姉を敬いなさい。私のことは「まい姉様」と呼びなさいよ」

さっきと言ってること違うし。



「なにが「姉様」よ。異母姉妹なんだから関係ないでしょ、呼び方なんて」

いや、関係あるでしょ。
そしたらみさとも「お兄ちゃん」って呼ばなくてもいいことになっちゃうし。
そう考えていたら、いつのまにか目の前にまい姉様が。

「聞いたでしょあやと!そうよ呼び方なんてどうでもいいのよ!というわけで、ま・い、って呼んで、さあ今すぐ、かも〜ん」

さすがまい姉様。都合が良くなったら一秒で主張ひっくりかえしちゃったよ。
なぜか着物はだけてるし。呼び方変えるだけじゃないの?

「お兄ちゃん!そんな淫乱の相手しちゃ駄目だよ!」

あいかわらずきっつい毒舌。
そう言いながら、さりげなく後ろに回って僕に抱き付いて来る。
背中にぶつかってるあったかくてやわらかい二つのものは、胸なんだろうけど。
今はやめて、まい姉様が見てる。

「みさと、あなたなにしてるの!?それは私に対するイヤミ!?」

「なんのことですか?ただお兄ちゃんに抱きついてるだけじゃないですか。
……ああ、おっぱいのことですか?ごめんなさい、これはあげることはできないんですよ。
というか洗濯板の人はお兄ちゃんに抱きつかないでくれます?
お兄ちゃんが痛がってしまいますから」

 ぶちんっ!

あ、やばい。

「……………コロス」
「やれるものならどうぞ?」

まい姉様はいつのまにか龍神流合気術の戦闘装束に着がえてるし。
さりげなくこっちをちらちら見ながらポーズとってるのはどうしてだろう?
……前から思ってたけどそれってまち伯b…姉様級の胸がないとなんかぶかぶかに……。

みさとはみさとでなんか周りにちいさな氷をたくさん作っちゃってるし。
ついでに、いつのまにか目の前にかき氷が。
ずいぶん上達してるのはいいんだけど、心のほうもちゃんと成長してほしい。

このままだとまち伯b…姉様が怒ってしまう!どうにかしないと……。
でも二人とも睨みあったままやめる気配はないし。しかたない。

「……おねがい……くりおねら」
「いやぁ――――!やめて―――――!この体はあやとだけのものなのよ――――――!」
「キャ―――――!いやっ!初めてはお兄ちゃんに捧げるんだから―――――――――!」

くりおねらの触手に捕まった二人がなんか言ってるけど聞こえない聞こえない。
なんにも聞こえない。
目を閉じて、耳を塞いで、っと。


………………もう大丈夫かな?

「いやぁ……ひゃ!?」
「くっ…いやっ!?そこは……!」

あ、ちょっと目を離していた間にやばいことになってる。
まい姉様はなんか恍惚とした表情になっちゃってるし、みさとはぐったりしてる。
なんで服がいろいろやばい感じに脱げてるんだろう?
って、このままだと違うことで怒られそうじゃん。

「くりおねら〜もういいよ放してあげて」

お、久し振りに言うこと聞いてくれ………てないし!

「きゃ〜〜〜〜〜〜〜!!」
「いや〜〜〜〜〜〜〜!!」
「ボク目がけて二人を投げ飛ばすな―――――!…………ぐふ!!」

二人がぶつかって床に倒れされた、正直痛い。
くりおねらにはもっと躾をしないと……。
毎回こんなんじゃ体がもたないよ。

あれ?何故かボクの上に二人に乗ったままだ。早く降りてもらわないと……。

「あやと〜私と一緒にいいことしましょう〜」
「お兄ちゃん、体があつい…よ……」

やばい―――――――――――!!
これはまさか!?父様が一番恐れてるヤツ!?
このせいで父様は子供ができない体になったって言ってたっけ―――――――!!

「た、助けて―――――――!?」
二人を引き剥がして立とうとしたものの立てなかった。
みさとは足にしがみつき、まい姉様は片手でボクの両手を握りしめていた。

「あやと何処にいくのよ?ちゃんとお姉様を介抱しなさいよ」

まい姉様、介抱される必要がある人間は、すごい力で腕を掴んで逃がさないようにはしません。
それに若干みしみしと音がしてることを心配してください。
器用なのは知っていますが、いまここでその才能を発揮しないでください。
なんで片手で戦闘装束を脱いでいるんですか?脱ぐ必要ないですよね?
それとなんで舌舐めずりしてるんですか?
その眼はなぜ、獲物を捕まえた、みたいになっているんですか?

「お兄ちゃん、あついよ〜」

みさと、まず足からはなれなさい。うん、放してくれてありがとう。
それであついのは自分の氷で冷やしなさい。
というかわかってるでしょ。顔がすごいにやけてるし。
いきなりいそいそと脱ぐんじゃありません。
ボクは後ろ向いてるから安心して。
残念そうな空気なんて流れてない流れてない。
みさとも安心してるよね、絶対。

「あら、やっとこっちを見てくれたのね?」

ちがいますみさとの着替えを見ないようにしてるだけです。
だから誇らしげに全裸で立つのはやめてください。
それじゃまるで痴女です。

「あら?あなたたち何をしているのかしら?」

この危機的状況に差し出された天使の救いの手。

「あ!助けてくださいまち伯母様!二人をおさ……え…て…………」

………………しまった、悪魔になられてしまわれた。

「今 な ん て 言 っ た ?」

まち姉様、懐から出されたその三体の藁人形はなんでしょうか?

何故五寸釘を三本だすのでしょうか?

何故ふりかぶっているのでしょうか?

何故それを藁人形につきさs……

「ぐげぇっ!!」
「ぐふっ!!」
「はぁう!!」





こんな日常ですが、ボクは元気です。