降り続ける雨は次第に激しくなっていき、風もまた強くなっていった。
しかしそんな事はお構いなしですずの家で人生げーむと言う戦いは続いていた。
まちの後、あやね、みちるも結婚マスには止まれず、りんの番になっていた。
「五、出ろーーーーー!」
りんはそう言ってルーレットを思い切り回した。
ルーレットはしばらく回り続け、それは五で止まった。
「あ…や、やったーーーー!結婚マスだ!」
そう言うとりんは行人の駒を自分の所に持っていき、行人の所に歩いていく。
「ダンナ!次はあたいと一緒だぜ!」
「あ、りん…」
行人はあれから梅梅と接吻することなく、五本の胡瓜を食べていた。
「悪いな、めめっち」
そう言ってりんは行人を梅梅から引き離した。
「ふぁ、行人サン…」
梅梅は胡瓜を銜えたまま、連れて行かれる行人を見送った。
「ふぅ、とにかくこれで一安心ね」
「けど梅梅があんなに大胆な事するなんてびっくりしたよ」
一同がそう言う中、行人とりんは一緒になってその場に座る。
(ダンナとい、いちゃいちゃか…みこともいないし…ど、どうすっかな…)
りんは行人をちらちら見ながらそんな事を考えていた。

一方、行人はかなり緊張していた。
(め、梅梅でさえあんな事要求するんだし…り、りんは何を…)
「よ、よし、ダンナ!」
「な、何!?」
りんに呼ばれると、行人は冷や汗を流しながらりんの方を向く。
「あ、あの、さ…抱き寄せて…ほ、欲しい…んだけど…」
「え?」
「あ、あたいを抱き寄せて欲しい!…だ、ダメか…な?」
りんは顔を真っ赤にして行人をじっと見つめる。
すると行人は無言でりんの肩に手を回すと、彼女を抱き寄せた。
「あ…」
「こ、これでいいかな?」
行人は頬を染めて明後日の方向を向きながらりんに聞く。
「う、うん…ありがと、ダンナ…」
そう言ってりんは行人の肩にそっと頭を乗せた。
(ふぅ…またすごい要求されるのかと思ったけど…良かった…)
その様子を見ていた一同はあまりいい気分ではなかった。
「行人様ったら、何でりんだとあんなに素直なのよ〜」
「ワタシの時とはだいぶ違いマスネ…」
そんな感じで一同は頬を膨らましていた。

「ねぇ、早くるーれっとを回そうよ」
「そうね、このままだとやっぱり面白くないし…次は誰?」
「私〜!二が出ると結婚マスね、よ〜し!」
そう言ってゆきのはルーレットを回したが、結果は四だった。
「ちぇ〜、四かぁ…次はすず姉ぇだよ」
「うん」
すずはルーレットに手をかけると、ちらっと行人とりんの方を見て頬を膨らませた。
(むぅ〜、行人ったら〜!)
すずはそのままルーレットを回すと、ルーレットは三で止まった。
「あら?すず、結婚マスじゃない?」
「へ?」
「確かに結婚マスですね。では今度は行人さんとすずちゃんが夫婦ですの」
そう言ってちかげは行人の駒をすずの所に持っていった。
「師匠、今度はすず殿と一緒でござるよ」
「え?ああ、分かったよ」
そう言って行人はりんの肩から手を離す。
「あ、ダンナ…はぁ…」
りんは名残惜しそうに行人の手が乗っていた肩に手を置いた。
一方、すずは近づいてく行人に気づき、彼の方に顔を向ける。
「次はすず、なの?」
「あ、うん。そうみたい…」

行人はすずの隣まで行くと、そのままその場に座った。
「すず姉ぇかぁ…どんな事するんだろ?」
「さぁね、ただ油断ならないのは間違いないわね…」
あやねはそう言って二人の様子を観察する。
一方、すずはこれから何をすればいいのかを考えていた。
(いちゃいちゃするって何をすれば…み、皆みたいな事をすればいいのかな…)
すずはちらっと行人を見ると、彼にさらに近づいていった。
「す、すず?」
「い、行人…」
すずはそのまま近づいていき、顔を行人に近づけていく。
「なっ!?すずちゃん、まさか接吻を!?」
「な、何ですってぇ!?」
一同が騒ぐ中、すずはそのまま行人に顔を近づけ、頬擦りをし始めた。
「ちょ、ちょっとすず…」
「ん、行人ぉ…」
すずは行人にぴったりくっつき、頬擦りをし続ける。
「な、何だ、接吻じゃないのね…びっくりさせないでよ」
「なんかすずサン、猫みたいデスネ」
「すずちゃんが猫みたいなのは別に不思議な事じゃないですの」
「そんな事はどうでもいいのよ。接吻ではないとは言え、これはこれで堪えるわ」
そう言うとまちはしのぶの方を向いた。

「しのぶ、次はあなたの番でしょ。早くるーれっとを回しなさい!」
「うむ!では行くでござる!」
そう言ってしのぶはルーレットを回し、ルーレットは一で止まった。

「よ〜し!次は私の番ね〜!」
そう言うとゆきのは腕をぶんぶん振り回す。
「早く!早くるーれっとを回しなさい!」
まちはそう言って行人とすずの様子を見る。
「んぅ〜、行人ぉ〜」
「す、すず…」
すずは先ほどからずっと行人に頬擦りをしている。
「い、行人様…くぅぅ…早くしなさい!ゆきの!」
「う、うん!」
ゆきのはまちに少し怯えながらルーレットに手をかける。
「あねご、苛立ってるな」
「一番最初に行人クンと一緒になってからそれっきりですからね…」
「お姉様、結構嫉妬深いから尚更ね…」
ゆきのがルーレットを回すと、それは五で止まった。
「五…あ、結婚マスだ!やった〜!行人と一緒〜!」
そう言うとゆきのは行人の駒を自分の所に持っていき、行人の所に向かった。

「行人〜!私と一緒だよ!」
ゆきのはそう言って行人の服を引っ張った。
「今度はゆきのか…分かったよ。すず、ちょっと離れて」
行人がそう言ってもすずは行人に頬擦りをし続ける。
「すず姉ぇ〜!終わりだってば〜!」
ゆきのに言われるとすずははっと気がつき、行人に頬擦りするのをやめた。
「ふにゃっ?終わり?終わり…あ、ご、ごめんね!行人!」
そう言ってすずが行人から離れると、ゆきのは胡坐をかいてる行人の足の上に座った。
「へへ〜ん、行人と一緒〜!」
「ゆ、ゆきの?」
行人の上に座ったゆきのはすごく機嫌が良さそうだった。
「う〜ん、でもこれじゃ何か物足りないわね…」
そう言ってゆきのはしばらく考えていると、何かひらめいたように顔を上げた。
「そうだ!行人〜!ぎゅっと抱きしめて!」
「へ?」
「抱きしめて!」
ゆきのは行人の方に顔を向け、目を輝かせながらそう要求する。
「ねぇ〜!行人〜!」
「あ〜、分かった分かった」
行人はそう言うとゆきのの腰に手を回してゆきのを抱きしめる。

「行人、あったかいね〜」
「ん、そうだね…」
一同はそんな行人とゆきのの様子をじっと見ていた。
「いいなぁ、ゆきのちゃん…私も行人クンにぎゅっとしてもらいたいです」
「それにしても行人さん、今までと違って冷静ですの」
「ゆきのはお子ちゃまだから行人様もあまり意識してないんじゃない?」
「それより早くげーむを進めるわよ!すず!次はあなたの番よ!」
まちがそう言うが、すずは行人とゆきのの方をじーっと見ていた。
「すず!あなたの番よ!」
「うにゃ!?あ、そっか。じゃあるーれっとを…」
すずがルーレットを回した事により、ゲームは再開した。

「さ!次は私の番ね〜!」
ゲーム再開後、結局誰も結婚マスに止まる事はなく、あやねの番になった。
「二よ!二!二、出なさ〜い!」
そう言ってあやねはルーレットを回した。
ルーレットの速度はだんだん遅くなっていき、二で止まった。
「や、やったわ!これで行人様と…行人様〜!」
あやねは行人の駒を移動させた後、にやけながら行人に近づいていく。
「行人様〜、次は私と夫婦よ〜!」
「え?う、うん」
「ほら、お子ちゃまはさっさとどきなさい」

あやねにそう言われるとゆきのは頬を膨らませる。
「む〜!子ども扱いするな〜!」
「あら、大人の女はこういう時、さっさとどくもんよ〜」
「ぐぅぅ…わ、分かったわよ!」
ゆきのはそう言うと行人から降りた。
あやねはゆきのをどかすと、行人の後に回り込んだ。
「あ、あやね?」
「ウフフフ、行人様〜」
あやねは後から行人の首に手を回し、抱きついてきた。
「行人様、愛してるわ〜!」
あやねはそう言うと行人の頬に接吻する。
その瞬間、行人は顔を真っ赤にしてあやねの方を見る。
「ちょ、ちょっとあやね!」
「んふふふ〜、行人様ぁ〜」
あやねはぎゅ〜っと行人を抱きしめる。
「あ、あやね、苦しいよ…」
「あら、じゃあ私の接吻で楽にしてあげるわ!」
あやねはそう言うと今度は行人の口に接吻しようとする。
するとまちは藁人形を取り出してそれに思い切り釘を突き刺した。
「ぐげぇぇぇっ!」
「あまり調子に乗るんじゃないわよ。さぁ、早くげーむを進めるわよ!」
「次はあたいの番だな」
りんはそう言ってルーレットを回した。

その後、一週回っても誰も結婚マスに止まる事はなく、行人とあやねは子どもを一人得ていた。
「フフ、行人様〜、このまま二人…いえ三人でゴールしちゃいましょ」
「いや、まだ四分の一も行ってないから。それに子どもも実際に生まれたわけじゃないし」
そんな二人を見ながら一同はゲームを進めていた。
「今の所あやねさんが行人さんと一緒にいる時間が一番長いですね」
「むかつくわね」
そう言うとまちは藁人形を剣山で挟んだ。
「はぎょぉぉぉぉぉぉっ!」
「しかしよりによってあやねとはな…すずっち、結果は?」
「うにゃぁ〜、ダメだったよ」
「では次は拙者の番でござるな…」
そう言うとしのぶは落ち込み気味でルーレットを回す。
「しのぶちゃん、何か元気ないね〜」
「行人クンと一度も一緒になってませんからね」
ルーレットは五を指して止まった。
「五、でござるか…」
しのぶはそう言うと自分の駒を動かし始めた。
「一、二、三、四、五…む?」
しのぶの駒が止まった所は結婚マスだった。
「あ……や、やった…やっと師匠と一緒になれるんや〜!」

しのぶはそう言うと行人の駒を自分の所に持っていった。
そしてしのぶが凄まじいスピードで行人に突っ込むと同時にあやねも吹っ飛ばされ、あやねはそのまま顔面から壁に激突した。
「ちょ、しのぶ!?」
「師匠〜…あ、そうでござる!」
しのぶは顔を上げると同時に行人の方を見つめる。
「師匠!道着に着替えて欲しいでござる!」
「道着?何でまた…」
「お願いでござるぅ〜、し〜しょ〜う〜」
しのぶは行人の服を引っ張りながら行人に要求する。
「あ〜、分かった分かった。じゃあ着替えてくるから」
そう言うと行人は立ち上がり、その場を離れた。
「しのぶの奴、ダンナに道着着せてどうすんだ?」
「ちょっとピンと来マセンネ」
「それよりあんた達…私の心配はしないわけ?」
あやねは壁からずるずると這いながらやってきた。
「あやねさんは頑丈ですからね」
「そんな事より今の内にげーむを進めるわよ!ちかげ!次はあなたでしょ!」
「分かりました。それでは」
「そんな事って……」

しばらくして道着に着替えた行人が戻ってきた。
「これでいいの?しのぶ」
「うむ!」
行人が座るとしのぶは即座に彼の隣に移動する。
「師匠!拙者とお揃いでござるな!」
「は?」
「格好も色もお揃いでござる!ぺあるっくでござる!」
そう言うしのぶは嬉しそうに目を輝かせる。
「いや、こう言うのをペアルックとは言わんでしょ」
「む、でもお揃いでござる」
「いや、少し違う部分もあるし…」
「お揃いでござる!」
そう言うとしのぶは行人の足に頭を乗せてごろんと寝転がる。
「師匠〜、なでなでして欲しいでござるぅ〜」
「……はぁ、まったく」
行人はため息を吐くとしのぶの頭をなで始めた。
「師匠、頬も撫でて欲しいでござる」
「え、頬も?」
「うむ、ダメでござるか?」
「…仕方ないなぁ、分かったよ」
そう言うと行人は空いてる方の手でしのぶの頬を撫でる。

「んぅ〜…」
しのぶはとても気持ち良さそうに目を細める。
するとちかげが行人の肩を叩いてきた。
「行人さん、次は行人さん達の番です」
「え?ああ、分かりました」
結局誰も結婚マスに止まれなかったらしく、行人としのぶの番になっていた。
行人はルーレットを回し、出た数字の分だけ駒を進めた。
「あら、子どもが生まれましたの。しかも双子」
「ふ、双子ですってぇ!?」
まちが騒ぐのを無視してちかげは二本の小さい棒をしのぶの駒に突き刺した。
「そ、そんな双子だなんて…」
まちが落ち込んでいると、ちかげが彼女の肩を叩く。
「まちさん、次はまちさんの番ですの」
「え、私の番?」
すでにちかげと梅梅はルーレットを回したらしく、まちの番になっていた。
「四が出れば…結婚マス…四…四!出なさい!」
そう言ってまちは力強くルーレットを回した。
しばらく回っていたルーレットは次第にゆっくりになっていき、四を指して止まった。
「あ…あぁ…やったわ…行人様!やっと!やっとまた一緒に!」
まちはものすごい勢いで行人に飛びついた。

「ごっ!ま、まち…」
「行人様!ああ、行人様ぁ!」
まちは行人に頬擦りしまくった。
「あぅ、師匠…」
取り残されたしのぶはその様子を見るとしゅんとなってしまった。
「まち姉ぇ、嬉しそうだね…」
「何言ってんのよ、すず!お姉様の好きにはさせないわ…ルーレットを回すのよ!」
あやねの一言でまたゲームは再開した。

その後、行人を巡る人生ゲームはさらに激しくなっていった。
「行人様は私の夫!」
「あやね!それはでんでん大根だよ!」
「皆、何を言ってるのかしら…行人様は今私と結婚してるのよ」
「よっしゃ!結婚マスだ!」
「ざんね〜ん!私も結婚マスに止まったからりんちゃんの番は終わり!」
「むぅ〜!師匠は拙者と一緒でござる!」
「そうはさせません!」
「えと、その…ワ、ワタシだって…」
「皆さん、必死ですの」
「皆、お願いだからちょっと落ち着いて…」
女性陣に振り回され、行人は急激に体力を消耗していった。

その後、ゲームは夜中まで続き、ついに終盤を迎えていた。
女性陣の駒にはどれも小さい棒が何本も突き刺さっている。
そして、全員の体力は最早限界に近く、気力だけで動いてるようなものだった。
「ふぅ、ふぅ…五、ね…行きましょ、行人様…」
現在行人とまちがチームになっており、まちは二つの駒を進め、水色のマスに止まった。
「な、何か書かれてるわね…えっと…ふりだしに…戻る…は?」
その瞬間、まちは行人とくっついたまま固まった。
「ああ、そこは激流ぞーんですの…大量の渦マス…つまりふりだしに戻させるマスがありますの」
「な…なんですって…」
「…ねぇ…ちかげさん…」
「は…い?」
「このルーレット、五が最大の数だよね…」
「そうですね…」
「五連続で並んでたらこれ以上進めないんだけど…」
行人の言葉にその場にいる全員が固まった。
「……ちょっと…設計みす…ですの」
「ですの…じゃねーだろ」
「これ以上進めないって…終われないって事?これ…」
「…よりによって…こんな…オチって…」
行人がそう言うのと同時に全員意識を失った。
藍蘭島用人生ゲーム、それは決して脱出(ゴール)出来ずにひたすら婿殿争奪戦を繰り広げるゲームである。