ある雨の日、皆はすずの家に集まっていた。
「行人様、遊びましょ」
「行人〜、遊ぼ〜」
そう言いながらまちとゆきのが行人の服の袖を引っ張る。
「別にいいけど、何して遊ぶの?出来るなら皆で遊べるのがいいけど…」
行人がそう言うとちかげが顔を出してきた。
「それでしたら私がいい物を用意しましたの」
「いい物?」
りんが聞くとちかげは持っていた風呂敷を床に置いた。
「ええ、これですの!」
ちかげは風呂敷からそれを取り出すと床に広げた。
「あら、これって…」
「すごろくでござるか?ずいぶんでかいが…」
「フフフ、これはですね…人生げーむと言う物です!」
「人生げーむ?」
行人と梅梅以外は不思議そうな顔でそれを見る。
「へぇ〜、人生ゲームか…」
「ワタシ、聞いた事アリマスヨ。人の一生の流れをすごろくに見立てたものデスヨネ?」
「人の一生をすごろくにぃ?」
「そうですの。ですが…これは普通の人生げーむとは違いますの!」
「ど、どう違うんですか?」
みちるがそう聞くと、眼鏡を光らせてちかげは彼女の方に顔を向けた。
「いい質問ですの、みし…えと、みちるさん」
「今一瞬、私の名前を間違えそうになりませんでしたか?」
「き、気のせいですの。とにかくこの人生げーむは藍蘭島用に作られていますの!」
「藍蘭島用に?」
「ま、やってみれば分かりますの。さ、皆さんの駒も用意してあるので取ってください。あ、行人さんはこれを」
「え?うん」
行人はちかげから青い駒を受け取った。
行人が女性陣の方を見ると、女性陣の駒は赤く、それぞれに番号が書かれてあった。
(僕のには番号がないし青い…何か嫌な予感が…ってかこの人生ゲーム、かなりでかい気がする)

「おっ、四が出たぜ!一、二、三、四っと…おっ、豆大福げっと」
「あ〜、いいな〜、りんちゃん…」
「次は私の番ね〜!あ〜、一だ〜…ちぇっ」
行人の不安をよそにゲームは順調に進んでいった。
しかしゴールまでのマスの数が思っていた以上に半端じゃなく、今日一日で終わるかどうかは怪しかった。
(とんでもなく長いけど…これなら大丈夫かな。藍蘭島用ってのもお金とかの代わりに野菜とか豆大福になったって事みたいだし)
「次は行人様の番よ」
「え?ああ、うん」
まちに言われると行人はルーレットに手をかける。
「今の所師匠が一番でござるか…」
「でも、まだまだ逆転のチャンスはアリマスヨ」
「すごく長いですもんね…」

周りがそんな事を言ってる内に行人はルーレットを回す。
「二か、あまり進まなかったな…一、二っと。あれ?ピンクのマスは初めてだな」
行人がそう言ってそこに書かれている文章を読む。
「えっと…『殿方の場合二の女子と、女子の場合殿方と結婚する』…へ?」
「あ、それは結婚マスですの」
「結婚マス?」
行人が聞き返すとちかげは眼鏡を光らせた。
「ええ、このマスに止まったら指定の人と一緒に、つまりちーむになるんですの」
「ちーむ?」
「そうですの。指定の人は吸収される形でその人と一緒になりますの。ですが…それだけではありません」
そう言うとちかげは眼鏡をくいっと上げると怪しく微笑んだ。
「なんとちーむになった二人は夫婦のようにいちゃいちゃ出来ますの!」
「な、何ですとぉ!?」
「さて、二の人は誰ですか?」
「私よ」
ちかげが聞くと、まちが手を上げた。
「ではまちさんと行人さんは今から夫婦と言う名のちーむですの」
「はいぃぃぃぃ!?」
行人が驚いてるとまちがぴとっと行人にくっついてきた。
「やっと…やっとこの日が来たのね…行人様、一緒に幸せになりましょ」
「いや!これはゲームだから!」

まちは頬を染めながらそう言う行人の頬を指でつついてきた。
「そんなの関係ないわ。私が行人様を愛している事に変わりないもの」
「ぐぅ…」
行人とまちのそんな様子を一同は嫉妬の目で見ていた。

結局そのままゲームは進み、行人とまちの番になった。
「はぁ、僕達の番か…」
行人がルーレットを回そうとすると、まちがその手に自分の手を重ねてきた。
「まち?」
「夫婦の最初の共同作業よ、行人様」
そう言うとまちは行人の手を動かしてルーレットを回した。
「三ね、一、二、三…あら、何か書かれてるわね…『結婚した者達の場合、子供が生まれる』」
そう言った瞬間、まちは瞳を潤ませ、満面の笑顔で行人に抱きついた。
「私達の最初の共同作業で私達の愛の結晶が…行人様!三人で幸せになりましょ!」
「ちょ、ちょっとまち…」
「名前は何がいいかしら…ウフフフフ…」
「それじゃあこれは子どもですの」
そう言うとちかげは小さい棒をまちの駒に刺した。
その様子を涙目で一同は見ていた。
「くぅ〜!これじゃあ拷問じゃねぇかよ!」
「ええな〜、ええな〜…まちはん、ええな〜」
「むぅ〜!何か面白くないよ〜! 」

「次はみ…みちるさんの番ですの」
「あ、はい…」
みちるはちかげに言われるとルーレットを回した。
「二ですね…一、二っと…」
みちるは落ち込み気味で駒を二マス動かすと、ちかげが反応した。
「あ、結婚マスに止まりましたね」
そう言うとちかげは行人の駒を取ると、みちるの駒のある場所にそれを持っていった。
「ちょ、ちょっとちかげ!何するのよ!」
「言い忘れてましたけど独り身の人が結婚マスに止まると相手が結婚してても結婚出来ますの」
「ど、どういう事?」
「簡単に言えば結婚マスに止まれば行人さんを奪えると言う事ですの」
「な、なんですってぇ!?」
まちは口に手を当てて目を見開いた。
「と言うわけで今度は行人さんと…みちるさんが夫婦ですの」
「ま、待って!行人様!行人様ぁ〜!」
まちは行人に手を伸ばして涙を流していた。
(何かすごい胸が痛いんだけど…)
行人が胸を押さえているとみちるが近づいてきた。
「あ、あの、行人クン…ふ、不束者ですがよろしくお願いします」
「え?あ、いや、こちらこそ…」
行人が頭を下げると、みちるは行人の頭をそのまま自分の太股の上に持ってきた。

「わっ!みちるさん!?」
「せ、せっかく夫婦になったんですから耳掃除してあげますね」
そう言うとみちるはいつの間にか手に持っていた耳掻きを行人の耳の中に入れた。
「あの、みちるさ…」
「動かないでください!」
「いや、でも…」
「い、いちゃいちゃしてもいいんですから気にしないでください!」
そう言ってみちるは行人の耳掃除をする。
(な、何故耳掃除…しかもみちるさんの胸が頭に…でも、ちょっと気持ちいいかも…)
行人が顔を真っ赤にして気持ち良さそうにしている様子を一同は嫉妬の目で見ていた。
「ああ〜、ちくしょ〜…いいなぁ…」
「私も行人といちゃいちゃした〜い!」
「行人サン、とっても気持ち良さそうデスネ…」
すると今まで落ち込んでいたまちがゆっくりとちかげの方を向いた。
「ちかげ…結婚マスに止まれば行人様を取り返せるの?」
「え、ええ、一応可能ですの」
「そう、フフフ…待ってて!行人様!必ず私があなたを取り戻してみせるわ!」
まちはそう言うと一同の方を向く。
「何してるの!早くるーれっとを回しなさい!」
まちに言われると一同は正気に戻った。

「そ、そうだ!結婚マスに止まればダンナと結婚出来るんだよな!」
「ならば早くるーれっとを回すでござる!次は誰でござるか!?」
「次は私よ!三が出れば結婚マスに止まれるわね…行くわよー!」
そう言ってあやねはルーレットを回した。
結果は二だった。

「一、二、三、四、五っと…あら、結婚マスですの。それでは…」
そう言うとちかげは行人の駒を自分の所まで持っていった。
「あ、そんなぁ…」
「それでは行人さん、今度は私と一緒ですね」
そう言うとちかげはぐいっと行人の腕を掴むと自分に引き寄せた。
「あぁ、行人クン…」
みちるは名残惜しそうに行人の方を見ていた。
「ふむ、そうですね…では行人さん、せっかくなので頬に接吻してください」
「えっ!?」
「ちょっとちかげ!何言ってるのよ!」
「何って…いちゃいちゃ出来るんですから別にいいじゃないですか。それとも、口で…」
「ぐ、わ、分かったわよ…」
「では行人さん、お願いします」
行人が周りを見てみると一同は妬ましそうに行人を見ていた。

「えっと…本当にやるんですか?」
「お願いしますの」
「ぐ…」
(こ、こうなったら仕方がない…早めに終わらせないと…)
行人は顔を真っ赤にするとちかげの肩を掴んだ。
そして行人はそのままちかげに顔を近づけていく。
するとちかげは顔を赤くし始めた。
(あ、あれ?な、何か落ち着きませんの…な、何故?)
そして行人が頬に唇をつけるとちかげはぽんっと顔を真っ赤にした。
「こ、これでいいですか?」
行人はちかげから離れて、顔を真っ赤にしながらそう言った。
「ふぇっ?え、あの…は、はい…」
ちかげはそう言って顔を赤くしたままうつむいた。
その様子を見ていたまちはわなわなと震えていた。
「ぐぅぅぅ…次よ!早くるーれっとを回しなさい!」
「そ、そうです!早くるーれっとを!次は誰ですか!?」
やる気を取り戻したみちるがそう言うと梅梅が手をあげた。
「ワ、ワタシデス…」
「梅梅殿か…それでは速く回すでござる!」
「は、はい!」
しのぶに言われると梅梅はルーレットに手をかけた。

(一が出ると結婚マスデスカ…でもワタシなんかが行人サンと…)
そう思いながら梅梅がルーレットを回すと、結果は一だった。
「お、一だ!結婚マスだぜ!めめっち!」
「え?」
「ほら、行人!梅梅と一緒だよ!」
そう言うとすずは行人の駒を梅梅の所まで持っていき、行人の服を引っ張った。
「う、うん。じゃあね、ちかげさん」
「あ、はい」
ちかげは離れていく行人を少し残念そうに見送った。
「えと…よ、よろしくお願いシマスネ、行人サン」
「う、うん…こちらこそよろしく」
二人のそんな様子を見て一同はほっとした。
「ふぅ、梅梅なら変な事しないでしょ…」
「ああ、あねごやあやねと違ってあんま積極的じゃないからな」
行人もそんな一同と同じ事を考えていた。
(ふぅ、梅梅か…良かった、これならあまり変な事をしないで済む)
一方、梅梅は何をしようかを考えていた。
(せ、せっかくのチャンスデスカラ何かしないと…そ、そうデスネ!)
すると梅梅はいきなり立ち上がり、台所の方に走っていった。
「め、梅梅?」
間もなくして梅梅は胡瓜を持ってきた。

「い、行人サン、ぽ、ぽぽぽポッキーゲームをシマショウ!」
そう言うと梅梅は胡瓜の先端を銜えて、行人の方にもう片方の先端を向けた。
「んなっ!?」
「ぽっきーげーむって何?すず姉ぇ」
「分かんない、まち姉ぇは?」
「知らないわ」
(ぐ、胡瓜でポッキーゲームなんて聞いた事ないよ…け、けどやるしかないのか?)
梅梅は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして行人を見つめる。
「う…ええい!どうにでもなれ!」
そう言うと行人は胡瓜のもう片方の先端を銜えた。
すると梅梅は猛烈な勢いで胡瓜をぽりぽりと食べて行人に接近してくる。
(ええええ!?何でそんなに速いの!?)
「なっ!?ぽっきげーむってああやって胡瓜を食べる事なんか!?」
「あのまま言ったら接吻してしまいますよ!」
「ま、まさかこれが梅梅の狙い!?」
行人は梅梅の接近に驚き、胡瓜をかじってぽきっと折ってしまった。
「あ、折れてしまいマシタカ…で、ではまだあるのでもう一度やりマショウ!」
「えええっ!?」
一同はそれを聞くと再び騒ぎ始める。
「は、早くるーれっとを!次はあねごの番だぜ」
「四よ!四が出れば結婚マスに!」
まちはそう言ってルーレットを回したが、結果は一だった。