よく晴れたある日の朝、行人は水を汲みに井戸に来ていた。
行人の他にもあやね、ちかげがその場にいる。
行人は井戸から桶を引っ張り上げると、痛そうに首の辺りを押さえた。
「痛てて…」
「行人さん、首、どうかしたんですか?」
ちかげが行人のその様子に気づいてそう聞くと、あやねも行人の方を向いた。
行人は桶を持つと、二人の方を向いて答えた。
「ああ、うん、夜中にちょっとすずに…」
「すずが夜中に何かしたの?」
行人の答えにあやねとちかげが少しむっとした表情になった。
「うん、昨日、夜中にばけばけが来たんだけど…」
「ばけばけ?」
「ああ、あの幽霊の事ね」
ちかげは首を傾げたが、あやねは納得したように首を縦に振った。
「幽霊じゃなくて白熊だけどね。家に来たばけばけに対応しちゃったのがすずみたいでさ、
 寝てる僕に思いきりしがみついてきて…」
『すずが行人に思いきりしがみついた』と言う事にピクッとあやねとちかげが反応した。
「そ、それでどうなったんですか?行人さん」
「うん、ばけばけの奴、友達も連れてきてさ、それで余計にすずが怖がっちゃってさらに力強くしがみついてきてさ…」
行人はそう言いながら家から持ってきた桶に水を注いだ。
「何か意識が薄くなってきてね、このままじゃやばいと思って次の機会に遊ぼうという事で昨日は帰ってもらったんだ」
「なるほど、ではその時すずちゃんに思い切りしがみつかれたから首を痛めたんですか?」
「う〜ん、それもあるんだけどね…」
行人はそう言うと困ったように頬をかいた。
「他にも何かあったの?」
「うん、すずがその後ずっと怖がっちゃって、力は緩めてくれたんだけどしがみついたまま離れなくって…
 仕方なくそのまま寝たんだけど…寝違えてさらに痛めちゃったみたい」
行人はそう言ってまた痛そうに首の辺りを押さえた。
そして行人の言葉を聞いたあやねとちかげはさらにむっとした表情になる。
「もしかして…すずったら朝まで行人様にしがみついてたの!?」

「う、うん…」
行人がそう答えると、あやねはぷるぷる震え、ちかげは何やら考え始めた。
ちなみに行人はすずと密着した事によってどこかへ行ってしまいそうな理性を抑えようとしたため、ろくに寝てなかった。
(さすがにあそこでやっちゃうのは…って、な、何を考えてるんだ僕は!
 こ、怖がってる女の子にそんな事しちゃいけない!)
行人はそう考えて首をぶんぶん横に振った。
そしてそうした事によって首に激痛が走り、行人はその場で悶えた。
行人がそうしている中、あやねは震えるのをやめて、うつむいて何やらもじもじしていた。
(すずの奴〜、やらなかったとは言え行人様を抱き枕にするなんて…わ、私も今度やってみようかな…)
あやねがそんな事を考えてると、ちかげが口を開いた。
「特訓しましょう」
「へ?」
「特訓ですの。すずちゃんのお化け嫌いを直すための」
ちかげがそう言うと行人とあやねは揃って彼女の方を向いた。
「ちかげ、いきなり何言ってるのよ」
「ですから、すずちゃんのお化け嫌いを直すんですの」
「いや、だから何でそんな事を…」
あやねがそう聞くと、ちかげは彼女に耳打ちした。
「じゃあ、あやねさんはすずちゃんがお化けを見るたびに行人さんにしがみついてもいいんですか?
 行人さんがまた抱き枕にされる可能性もあるんですよ」
「そ、それは…」
「私達はすずちゃんにただでさえ"りーど"されてるんですよ」
「う…そ、そうね、確かに…」
ちかげが離れるとあやねは髪をかきあげた。
「ま、まぁ、確かにいい機会かもしれないわね」
「う〜ん…まぁ、確かにすずの怖がりを直すのはいいかもしれないな…」
そう言うと行人は顎に手を当てた。
「では決定ですね。今日の夜、すずちゃんを迎えに行きますから」
「え?今日やるの?」
「ええ、こういうのはすぐに行動しないと」

ちかげはそう言うとあやねの方を向いた。
「あやねさん、後でそちらにお邪魔しますね」
「へ、うち?」
「ええ、まちさんにも協力してもらいますので」
「まちに?」
「ええ、私の考えた特訓には最適ですので…さて、そうと決まれば早くしなければ…」
そう言うとちかげはその場から去っていった。
そんなちかげを見送ると、行人はあやねの方を向いた。
「それにしてもあやねが賛成するとはね」
「え、何で?行人様」
「いや、だってさ、すずはあやねにとってはライバルなんでしょ?
 そのライバルの弱点が減る事になるんだからあやねにとっては困るんじゃ…」
「え?あ、いや、それは…す、すずがあんまりにも情けないと張り合いがないのよ!
 わ、私もそろそろ行くわね!じゃあね!行人様!」
あやねはそう言うとその場から走り去っていった。
「あ、ちょっと……はぁ、僕も行くかな」
そう言って行人もその場を後にした。

そして日が沈み、夕食を終えた行人達は家でくつろいでいた。
すると玄関の戸を叩く音が行人達の耳に届いた。
「行人さ〜ん!すずちゃ〜ん!いますか〜!?」
「ちかげちゃん?」
すずは立ち上がると、玄関の戸を開けた。
「夜分遅くにすいません。ちょっとすずちゃんに頼み事がありまして…」
「私に?」
「ええ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だけど…頼み事って何?」
「それについては後で説明しますの。とにかくついて来てください」
「うん、わかった」
すずはそう言うと家で本を読んでる行人の方に顔を向けた。

「行人〜、とんかつ〜、ちょっと行ってくるね」
「え?ああ、うん」
「ぷ」
行人ととんかつが返事をすると、すずはちかげに連れられて家を出た。
ちなみにとんかつは行人の頭の上でくつろいでいた。
(朝言っていた特訓か…どんな事するのかな?)
行人は本を読むのをやめると顎に手を当てて考え始める。
(そう言えばまちも協力するんだっけ。
 あの様子だとあやねも参加しそうだし…ちかげさんとまちとあやねの特訓か…あれ?何かすごい不安になってきた…)

「あやね、準備できた?」
「ええ、あとは配置につくだけよ」
まちとあやねは森の中で何かの準備をしていた。
「すずの怖がりを直すために頑張らないとね〜」
「うふふ、そうね…」
二人は『すずのため』と言うが、その口元は楽しそうに笑っている。
「けどこの『きもだめし』って言うのですずの怖がりを直せるのかしら?」
「ちかげによると、この特訓で怖がりな子が『ぷっつん』と言う音と同時に
 泣きながら大笑いして克服したと言う成功例が載った本を多く見た事があるって」
「ふ〜ん…」
まちはあまり関心がなさそうにあやねの言葉を聞く。
「他にもこの『きもだめし』は男女の関係を良くする事も出来るみたいよ」
「な、何ですって!?こ、今度行人様とやってみようかしら…」
「お姉様は無理よ〜。だって怖がりな女の子じゃないと意味がないんだから。
 大体お姉様は怖がるんじゃなくて怖がられるほぅんぐぇ!」
あやねは台詞を全部言う前に胸に手を当て、奇妙な悲鳴を上げた。
釘の刺さった藁人形を持つまちはあやねの悲鳴とは別の何かに反応し、表情を変えた。
「来たわね…あやね、配置につきなさい」
まちはそう言うがあやねの返答はない。
「ちょっと、あなた、いつまで寝てるのよ」
まちは苦しそうに胸に手を当ててるあやねに声をかけた。

「ぎ、ぐ…だ、だったらは、早く抜いてぇぇぇぇ…」
「抜く?」
「く、釘…わ、藁人形の…釘…」
「あ、そうね」
まちが藁人形から釘を抜くと、あやねは何かに解放されたように息を吐く。
「まったく、忘れないでよ…」
「あら、でもでんでんは『放置ぷれい』も好きみたいじゃない」
「何で知ってるのよ…じゃなくて、でんでんは関係ないでしょ!」
「そんな事より配置につきなさい」
「分かってるわよ!」
あやねがそう言ってその場を離れると、まちはリアルな髑髏のお面をつけた。
「ふふ、私の『特訓』は甘くないわよ…すず…」

すずとちかげは普段通る道から外れて森の中を歩いていた。
「ね、ねぇ、ちかげちゃん、どこに行くの?」
すずはちかげがどこに向かっているのか、さすがに気になってそう聞いた。
するとちかげはピタリと歩くのをやめた。
すずもそれに釣られて歩くのをやめる。
「ちかげちゃん?」
すずが声をかけると、ちかげは顔に手を当ててしゃがんでしまった。
「ち、ちかげちゃん?どうしたの?」
すずはちかげに駆け寄り、彼女の肩に手をかける。
「実は…大事な物をなくしてしまって…」
「大事な物?」
「ええ…どんなに探しても探しても見つからなくて…だからすずちゃんのをもらえたらと思いまして…」
「え、私のって…一体何を?それに何でこんな所で…」
すずがそう聞くと、ちかげはうつむいたまま、すずの肩に手を置いた。
「こんな所まで連れてきたのは…人に見られるとまずいからです…」

「え?」
「だって…『顔』を剥ぎ取るのですから…」
そう言ってちかげは『何もない』顔をすずに向けた。
「ひ…ひにゃあああああああああああああああ!」

今、すずは全力で走ってる。
後からはのっぺらぼう(正確にはそれに扮したちかげ)が追いかけてくる。
「待ってくださいよ〜すずちゃ〜ん…逃げないでくださいよ〜…」
すずはいたずらの可能性を考える余裕もないのか、ちかげの言葉も聞かず必死に走る。
しかしその甲斐あってか、ちかげとの差はどんどん開いていった。
すると突然すずの足を誰かが掴んだ。
「うにゃっ!?」
すずは顔面から派手に転んだが、すぐに立ち上がろうとして、自分の足を誰かが掴んでいることに気がついた。
「だ、誰っ?」
すずが振り返ると、地面から手が生えており、その手がすずの足を掴んでいた。
すずが呆然としていると、もう一本の手がいきなり地面から飛び出してきた。
「ひっ!?」
そしてさらに、地面から黒い長髪の女が飛び出してきた。
その顔は長髪に覆われていて、すずからは彼女の顔が見えなかった。
その不気味な様子がすずの恐怖を煽る。
「は、離して…離して!離してよ!」
すずはそう言うが女は手を離そうとしない。
早くしないとのっぺらぼう(ちかげ)に追いつかれる、その事で頭がいっぱいのすずは必死だった。
すると女の頬を一筋の液体が伝い、それはそのまま地面に落ちた。
「おなかがすいてるの…」
「え?」
「おなかが…本当にすいてるの…今すぐに何かを食べたいの…だから…」
そう言って女が顔を上げると、すずは言葉を失い、その顔は蒼白となった。

その女の両目は口になっており、物欲しそうに涎をたらしていた。
「「「こんなに涎がこぼれちゃって…ねぇ…食べていい?」」」
女は三つの口から同じ台詞を同時に発した。
「ひにゃああああああああああ!」

行人は木刀を持って夜道を走っていた。
するとまたどこからか何者かの悲鳴が聞こえてきた。
「ぷー!」
行人の頭の上に乗ってるとんかつがその悲鳴を聞いて騒いだ。
(あの悲鳴は多分すずの…ちかげさんとすずに何かあったんだ…急がないと!)

すずはさらに走った。
後からはのっぺらぼう(ちかげ)と目が口になっている女(あやね)が追っかけてくる。
「はっ…はっ、だ、誰か…」
そうして必死に走ったすずは見慣れた道に出た。
そして、こういう事態に対処できるであろう人物が彼女の視界に入った。
「ま、まち姉ぇ…まち姉ぇ!助けて!」
すずは泣きながらまちに駆け寄り、彼女にすがりついた。
「どうしたの?すず」
まちはすずの方を見ないまま、そう聞いた。
「ち、ちかげちゃんが…顔がなくて…地面から目が口の人が…」
すずはまちに必死に説明にならない説明をする。
「よく分からないけど…何かに追われてるの?」
まちにそう聞かれると、すずは何度も首を縦に振る。
「そう、分かったわ。助けてもいいけどその代わり…」
そう言ってまちが振り返るとすずの顔はさらに青くなり、その場に尻餅をついた。
「あなたのお肉、ちょうだいね…」
そう言うまちの顔には髑髏のお面がついていた。
しかしすずにはまちが骸骨のお化けに見えてしまい、またもすずは悲鳴をあげてそこから逃げようとした。

だが出来なかった。
どうやら今ので完璧に腰が抜けてしまったようである。
「うふふ、美味しそうな子ね…」
そう言いながらまちはすずににじり寄る。
するとすずを追っていた二人も追いつき、森から出てきた。
「追いついた〜、逃げないでくださいよ〜」
「もう逃げられないわよ…」
「あ、あ…」
囲まれたすずは泣く事ぐらいしか出来なかった
「い、行人…行人…」
すずは行人に助けを求めるが、彼はここにいない
「「「いただきまーす!」」」
三人はそう言うとすずに覆いかぶさった。

「ちょっとやりすぎてしまいましたね…」
ちかげはそう言って気絶しているすずを見る。
すずは三人に覆いかぶさられた瞬間、恐怖のあまり気絶した。
「まさかあそこまで怖がるなんて…結局『ぷっつん』もありませんでしたし…」
ちかげはそう言うと顔の特殊メイクを剥ぎ取った。
まちもそれと同時に髑髏のお面を外した。
「それにしても見事な驚きっぷりだったわね、すず」
まちは満足そうにほう、とため息を吐く。
驚かすのが大好きなまちにとってすずの反応はとても興奮させる物であった。
「まぁ、確かに少しやりすぎちゃったかもしれないけど」
「すずーーーーー!ちかげさーーん!」
「はい?」
ちかげが声のする方を向くと、行人が木刀を持って走ってきた。
「ちかげさん、無事!?すずは!?」
行人はちかげの肩を思いきり掴んで彼女に迫った。

「お、落ち着いて、行人さん(でもこれはこれでいいですね)」
「すずならそこで気絶してるわよ」
「え?」
あやねがそう言うと行人は彼女の方を向く。
すると行人はあやねに向かって木刀を向けた。
「く、何だお前!もしかしてエイリアンか!?」
「へ、違うわよ、行人様。私よ、あやねよ」
あやねは自分の特殊メイクをとって素顔を晒した。
「何だ、あやねか…」
行人がほっと一息つくと、行人の頭の上からとんかつが落ちた。
「え、とんかつ?」
行人はとんかつを受け止めて見てみると、とんかつは白目で気絶していた。
「うふふ、どうやらとんかつには刺激が強すぎたようね」
まちはそう言いながら怪しげな笑みを浮かべる。
「まぁ、確かにすごかったけど…って、そうじゃなくて!すず!?」
行人は気絶しているすずを揺すってみるが彼女は起きなかった。
「見事に気絶してるのよ」
「ねぇ、ちかげさん、もしかして『特訓』をして…」
「ええ、まぁ…」
そしてちかげは特訓内容とそれにより何が起こったのかを説明した。

説明が終わると行人は大きなため息を吐いた。
(そうだよね、この三人の、しかもすず相手の特訓が生易しいものになるわけないよね…)
「結局すずちゃんの怖がりは…」
「直らなかったみたいだね」
行人は背中に背負ったすずに視線を移してそう言った。
ちなみに彼の頭の上には気絶したとんかつが乗っている。
「ま、今回がダメでも次があるじゃない」

「いや、いいよ」
「え、やめるの?」
「うん、そっちの方がいいよ。別にすずの怖がりはそこまで迷惑じゃないし。それにこういう特訓、あやねだって怖いでしょ」
「う…」
「…巫女なのに」
「ぐ…ま、まぁ、私は大丈夫だけど確かにすずには酷かもね!それに多少のはんでぃきゃっぷぐらいどうって事ないわ!」
「え、ハンディキャップ?」
行人はどちらかと言えばハンディキャップがあるのはすずの方だと思ったが、面倒な事になりそうなので口に出さなかった。
「まぁ、確かに行人様の言う通りかもね。すず、本当に怖そうだったし。それに…克服しなきゃならない娘は他にいるしね」
そう言うとまちはあやねの肩を掴んだ。
「お、お姉様?」
「巫女なんだからちょっとやそっとでは動じない心を身につけないとね」
「楽しそうな顔で何言ってんのよーーーー!」
「それじゃあね、行人様。おやすみ」
そう言ってまちは怪しく笑いながらあやねを引きずっていった。
ちかげは二人を見送りながら、さっきあやねが言った台詞について考えていた。
(多少のハンディキャップはどうって事ない、ですか…そうですね、
 まだ行人さんはすずちゃんと結婚したわけではありませんし…)
ちかげはそう考えると、行人の方を向いた。
「それじゃ私も失礼します。すずちゃんにはごめんなさいと伝えておいてください」
「え?ああ、分かりました」
「おやすみなさいですの」
そう言ってちかげは帰っていった。
「……さて、僕達も帰るか」
行人はとんかつを頭に乗せ、すずをおぶったまま、家に向かって歩き始めた。

家に着き、行人は布団を敷くと、そこにすずを寝かせた。
ちなみに気絶したとんかつは少し離れた所で静かに寝ていた。
するとすずの瞼がゆっくりと開かれた。

「ん…ここは…」
「あ、すず、大丈夫?」
「いく、と?」
すずはぼうっと行人を見つめていたが、いきなり行人に抱きついてきた。
「す、すず?」
「いくとぉ〜…」
すずは行人の胸に顔を埋めて泣いていた。
行人はすずを落ち着かせようと、彼女の頭をなでた。
するとすずはさらに涙を流し、嗚咽する。
(よっぽど怖かったんだな…無理もないよなぁ、あのメンバー相手じゃ…)
「いくとぉ、どうしよぉ〜…」
「え?」
気がつくと、すずは少し顔を上げて行人に顔を向けていた。
「ふっ…ぐっ…まち姉ぇとっ…ちかげちゃんがっ…うっ…お化けになっちゃったぁ〜!」
すずはそう言うと再び行人の胸に顔を埋めてさらに泣いた。
(あ〜、そっか。説明しないと…)
「すず、あのさ…」

行人はすずの頭をなでながら今夜の『特訓』について説明した。
そして全て説明し終える頃には、すずの嗚咽は小さくなっており、彼女自身も落ち着いたようだった。
すずは再び顔を上げて行人の方を見つめてきた。
「じゃあ、まち姉ぇとちかげちゃん、お化けになってないの?」
「もちろん。第一お化けなんてこの世にいないよ」
「……良かったぁ〜〜…」
すずはそう言いながら脱力し、行人に寄りかかった。
「まち姉ぇがお化けになっちゃってどうしようかと思ったよぉ…」
「はは、けどまちは普段でも結構すごいけどね」
行人が苦笑しながらそう言うと、障子がガタガタと音をたて、すずはそれにビクッと反応し、行人のシャツをぎゅっと掴んだ。

「すず?」
行人が呼びかけると、すずは震える手でさらに強く行人の服を掴んだ。
「…大丈夫だよ、風で障子が揺れただけだよ」
「そ、そうかな?…」
すずは涙目で行人を見上げるが、行人の服を掴む力は緩めない。
「うん、だから大丈夫だよ」
行人がそう言っても、すずは不安そうに行人の服を掴んだままであった。
(…本当に何したんだろうか、あの三人は…)
「行人…」
「え、むっ!?」
行人がすずの方を向くと、すずはいきなり彼の唇と自分の唇を重ねてきた。
そしてすずはそのまま行人の口内に舌を侵入させ、行人の舌と絡ませようとする。
「んっ…むっ…」
行人は戸惑い、彼の舌はそのまますずの舌に絡まれる。
しばらくしてすずは行人から唇を離した。
「す、ず?」
行人は戸惑ったまますずの方を見ると、すずは頬を染めて泣きそうな顔でうつむいた。
「行人と、こうすると…頭の中がぼうっとしてきて、気持ち良くなれるから…何か安心できるから…」
すずはそう言うと上目遣いで行人を見つめてきた。
「もっと…欲しいけど…ダメ…かな?」
すずはまた行人の服をぎゅっと掴んでくる。
すると行人はすずの肩に手を置き、行人はすずと唇を重ねた。
そして彼女を布団の上に優しく押し倒した。
今度は行人が舌をすずの口内に侵入させ、すずのそれと絡ませる。
「ん…ふっ…」
すずも行人に応えるようにして舌を動かしていく。
行人は舌を絡ませたまま右手をすずの胸まで持っていく。
「ふっ…んっ、むっ…」

行人の右手はすずの胸に到達すると、それの形をゆっくり変えていく。
「はっ…んぅ…んっ…」
すずの頬は上気し、くぐもった吐息を漏らす。
その間も行人の右手はすずの豊満な胸を様々な形に変えていく。
「ふぁっ…ん、むぅ…」
すずは切なそうな瞳で行人を見つめながらさらに舌を絡ませようとする。
しかし行人はすずの唇から自分の唇を離した。
「あっ…」
すずと行人の間に唾液の糸が名残惜しそうに引かれ、切れた。
「すずのここ、硬くなってきたね」
「え?」
行人はすずの服の上から彼女の乳首を人差し指で弄ぶ。
「にゃぅっ!?」
すずが声をあげるのを聞くと、行人はさらにすずの乳首を弄ぶ。
「いく…とっ…」
そうしていく内にすずの乳首はさらに硬くなっていき、服の上からでもはっきり分かるくらいに勃つ様になっていった。
行人はそれを見ると服の上から乳首を摘み、それを捏ねくり回す。
「はぅぅっ!いくとっ、んっ!」
「すず、そんなに声を出したらとんかつが起きちゃうかもよ」
行人は寝てるとんかつをちらりと見てすずに言った。
「っ…」
裸を見られても恥ずかしがる事はないすずだが、何故かこの状態だけは行人以外に見せたくないと言う考えがあった。
だからすずは声を出さぬよう、必死に口を閉じようとする。
しかし行人はあんな事を言いながらすずの乳首を弄ぶのをやめない。
「っ…んぅぅ…」
行人はすずが刺激に耐える様子を見ながら左手をすずの秘所に持っていく。
スカートを捲り、行人は左手の人差し指で下着越しに筋をゆっくりとなぞっていく。
「ひにゃっ!?」

「すず、声」
「んっ…うぅぅっ…」
すずが恨めしそうに行人を見ても、行人はそれを気にせずにすずに刺激を与え続ける。
そして行人は彼女のクリトリスを下着の上から揉むように押して刺激を与えた。
「にゃっ!んぅぅっ…」
すずは刺激に耐えられずまた喘ぎ声を漏らしてしまう。
「すず」
「うっ、んぅっ…」
すずは行人に声をかけられると、声を出さないように近くにある枕を手に取り、それで口を押さえる。
すると行人はクリトリスへの責めをやめ、今度は膣口のある場所に人差し指を当てる。
行人の人差し指は湿り気を感じ取ると、刺激を与えようとそこを押すように責め始めた。
「むぅぅぅっ…」
すずは目をぎゅっと瞑って刺激に耐えようとする。
そんな中、行人がさらに刺激を与えると、すずの下着の染みの面積は拡がっていく。
「んぅぅ…んんんっ…」
すずの鼻息はすでに荒く、すずの目から涙がこぼれる。
行人は責めるのをやめ、すずの方に顔を向ける。
「すず…そろそろ…」
行人がそう言うとすずは枕で口を押さえたまま、ゆっくりと首を縦に振った。
それを見た行人は両手をすずのスカートの中に入れ、すずの下着の紐に手をかける。
それを解くと、行人はかなり水分を吸った下着をすずから外して床に置いた。
行人は自身をズボンから取り出すと、すずの入り口にそれを当てた。
「挿れるよ」
行人がそう言うと再びすずは頷いた。
すずのそこは十分濡れており、行人はスムーズに自身を挿れる。
そしていきなり激しく腰を振り始めた。
「んぅぅぅっ!?むぅぅっ!」
すずは強い刺激に腰をくねらせ、枕を握り締める。

「すず、僕、すずの顔をちゃんと見たいんだけど」
行人にそう言われるとすずは枕をどかした。
するとすずの口を押さえるものはなくなり、声が自然と漏れてしまう。
「にゃぁっ!んぅぅっ!」
すずは口を閉じようとするが、行人が激しく腰を動かすため声が漏れてしまう。
(声、抑えないと…)
すずは再び枕で口を押さえようとする。
「すず、ちゃんと顔を見せて」
それを聞くとすずは枕を戻せず、声はどんどん漏れていく。
「にゃっ!はっ!んぅっ!」
行人が奥を突くたびにすずは大きな嬌声を出す。
「すず、声が…」
「だってぇ、行人がっ!無理だよぉ!」
すずの目からは涙がこぼれ、その口からは唾液がだらしなく垂れる。
やがて行人の腰の動きはさらに激しくなっていく。
「ふにゃぁっ!んっ、くぅっ!」
「すずっ、そろそろっ!」
行人はそう言うと激しくすずの奥を何度も突いていく。
「はっ!奥にっ!んぅっ!」
「くっ、すず!」
「んにゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
すずは限界を迎え、行人のものをきゅうきゅうと締め付ける。
行人もそれにより、すずの中を精で満たす。
行人は自身を引き抜くと、とんかつの方を見た。
「…とんかつ、起きなかったみたいだね」
行人はそう言ってすずの方を見た。
彼女は実に恨めしそうに行人を睨んでいた。

行為の後、行人とすずは風呂に入り、そのまま整理した布団の中に入っていた。
すずはその間ずっと不機嫌そうで、今も行人に背を向けて寝ている。
「あの…すず、起きてる?」
「…………」
すずは答えないが、代わりに布団の中に潜る。
「う……す、すいませんでした」
行人がそう言うとすずは不機嫌そうな視線を行人に向ける。
「お願いしたのは私だけど…意地悪しなくったっていいじゃない…とんかつが起きなかったから良かったけど…」
「…本当にすみませんでした」
行人がそう言うと、すずは行人の方を向き、彼の布団の中に入ってきた。
「す、すず?」
「…謝らなくていいよ。意地悪は嫌だけど…行人のそばにいると安心できるのは本当だもん」
すずはそう言うと行人に身を寄せる。
「行人とくっつくとね、私は一人じゃなくて行人がいるってはっきり分かるの…」
「すず…」
すずは行人の背中に手を回した。
行人はそんなすずの頭をなでながら口を開いた。
「大丈夫だよ。僕もだけど、皆だってすずの味方なんだから。すずが本当に危ない時は皆が助けてくれる。
 だからね、おばけだって怖がる必要もないんだよ」
行人は内心「お化けなんていないけど」とか思いながらすずにそう言った。
「そうかな?」
「うん」
すずは微笑みながら言う行人を見ると、心底安心したように目を瞑った。
(でもね、何でなのか行人のそばが一番落ち着けるんだよ…今も…)
風により、障子が揺れて音が出ても、すずは安らかな寝息をたてていた。

翌朝、寝違える事なく、目覚めた行人に向かってからあげは「昨日はお楽しみだったね」とか言ったそうな。
そして、すずは昨日の夜の事を正直にあやね達に話してしまい、行人は何人かに一日中終われる事になったそうな。