ある晴れた日の事、行人は洋館からの帰り道を歩いていた。
何故洋館に行ったかと言うと、新しい推理小説を借りるためである。
「ふ〜む、今回のは紅夜叉視点から始まるって聞いたけど…どんな感じなんだろ」
行人はそんな事を呟きながら歩いていると、川の方に歩いていく人影を発見した。
「ん?あれは…くないさん?」
くないはそのまま川の方に歩いていく。
その表情はどこか虚ろだった。
「何か様子が変だな…くないさ〜ん!」
行人はくないに呼びかけながら走り出した。
すると川の直前で躓いたらしく、くないはバランスを崩す。
そしてそのまま川の方に倒れていく。
「くないさん!くっ!」
行人は倒れそうになるくないの手を掴むとぐいっと引っ張る。
くないはそのまま引っ張られるが、勢い余って行人の方に倒れこんできた。
「え?うわわっ!?」
くないはそのまま行人の上に覆いかぶさるように倒れた。
「つっ…大丈夫ですか?くないさん」
行人はくないをそっとどかすと上体を起こした。
「ん…あれ?行人はん?」
くないはやっと行人の存在に気づいたのか顔を行人の方に向けた。

「何してはるん?」
「それはこっちの台詞ですよ。川に何かあったんですか?」
「別に何も」
「何もって…じゃあ何で川に?」
行人がそう言うと、くないは川の方を向いて口を開いた。
「気づかんかったなぁ…」
「気づかなかったって…」
行人が呆れたようにくないを見ると、くないは頬に手を当ててため息をついていた。
「何か元気ないみたいですけどどうしたんですか?」
「え?ああ、ちょっとな…失恋してしもたんや」
「失恋って…とげ太さんにフラれたんですか?」
「いや、直に言われたわけやないんやけど」
「ど、どういう事ですか?」
行人がそう聞くと、くないはふっと顔を上げて話し始めた。
「実は昨日の事なんやけど…」

くないは授業に使う本を借りに洋館に来ていた。
「こんなとこやな…ん?あれは…」
くないはドアを開けると楽しそうに誰かと話してるとげ太を発見した。

「あ、とげ太は…ん…」
くないは声をかけようとしたが、話し相手を見るとそれをやめた。
(今日は本当にありがとうございました)
(いやいや、そんな事は…またいつでも呼んでください!)
とげ太は嬉しそうに話し相手、ぱな子にそう言う。
その様子を見ていたくないは無言のままその場を立ち去った。

「と言うわけなんや…」
「えっと…それだけですか?」
「それだけや」
くないがまたため息をつくと、行人は頬をかきながらくないに言った。
「でも…それだけじゃまだ…」
「それだけで十分分かってしもたんや…うちと一緒にいる時はあんなに嬉しそうな顔せえへんし」
それはあなたの行動に問題があるのでは、と行人は言おうとしたが、くないは話し続ける。
「よく考えたらうちより若くて綺麗なぱな子はんの方がとげ太はんもええもんな…
 うちじゃぱな子はんには絶対敵わへんもん」
行人はそれを聞くと、何かにスイッチが入ったのか表情を変えた。
「そんな事ありませんよ!くないさんだって十分綺麗です!」
「へ?」
くないはいきなり雰囲気が変わった行人の言葉に呆然とした。

「くないさんは大人っぽくて魅力的だし…」
「え、あの…」
「だけど可愛い物が大好きな所がすごい女の子っぽくて可愛い所もあって…」
「けどうち、もうそんな若くあらへんし」
くないがそう言うと行人はさらにむっした表情になる。
「何言ってるんですか!18歳なんてまだ全然若いですよ!」
「けど島一番の美少女のぱな子はんとうちじゃ…」
「だから!くないさんだってぱな子さんに負けず劣らず綺麗なんですからそんな事言わないでください!」
「あ……」
そこまで言われたくないは頬を赤く染めて頭を下げる。
行人は冷静になってきたのか顔を真っ赤にして慌て始めた。
「えと、これは、その、うんと…」
するとくないは突然立ち上がり、その場から走り去ってしまった。
「あ、くないさん!……はぁ、何であんな恥ずかしい事言ったんだろ…」
行人はしばらく指でのの字を書いていると、本を持って立ち上がった。
「……帰ろう」
行人は頭を下げて帰路に着いた。

その日の晩、くないは布団の中で昼間の事を考えていた。
(あないな事言われたの…初めてやな…)
くないの頭の中に昼間の行人の顔と言葉が浮かぶ。

するとくないの頬は朱に染まっていく。
(何か…どきどきするな…とげ太はんと一緒にいる時はこんなにならんのに…)
くないは目を伏せると、手を胸に当てる。
(うち…どうしよう…)
くないは布団の中で一人、ずっと考えて夜を過ごした。

それから数日経ったある日、くないはすずの家にやってきた。
すずは何か仕事があるらしく、とんかつもすずについて行ったので家には行人しかいなかった。
「どうぞ」
行人はそう言ってくないにお茶を差し出した。
「おおきに」
くないはお茶を受け取ると、一口飲んで湯飲みを置いた。
行人もくないと向き合う形で座る。
「それにしても珍しいですね。くないさんがここに来るなんて」
「ちょっと…あってな…」
くないは一瞬うつむくがすぐに顔を上げる。
「とげ太はんに…自分の今の気持ちを伝えてみたんや」
くないの言葉を聞くと、行人は目を見開いて緊張する。
「告白…したんですか?」
行人が静かに聞くと、くないはすっと目を伏せた。
「告白…なのかよう分からん」
「ど、どういう事ですか?」
「うちの気持ちは伝えた…けどとげ太はんへの恋を実らせたいわけやないんや」

くないの答えに行人は首を傾げる。
「じゃあ一体何を…」
「今でもとげ太はんは好きなんやけど…何か、それ以上に好きになってしもた人がいるみたいなんや」
くないはそう言うと行人の顔をじっと見つめてきた。
その頬は僅かに赤く染まってる。
「その人の事考えるとな、ここらへんが切なくなるんや…こんな事今までなかったんやけど…」
くないは右手を胸に当てて、ぎゅっと握り拳を作る。
「くない…さん?」
「だから…けじめとしてとげ太はんにその事を告げたんや。散々付きまとったから…」
「そ、それでとげ太さんは…なんて…」
行人はくないに見つめられたままそう聞いた。
「ただ、そうかって…応援するってゆーてくれた…」
ちなみにとげ太はほっとしたのだが、くないはそれに気づいてなかった。
「そ、そうですか…そ、それで…その…好きな人って…」
行人は自分でも大体答えが推測できたにも関わらず、くないにそう聞いた。
くないは熱っぽい目で行人をじっと見つめながら口を開く。
「うちな、あんな真剣な顔で綺麗で可愛いなんて言われたの、初めてなんや…」
「え?」

「行人はんは…こんなずるくて尻軽な女でも…綺麗とか可愛いとか思てくれる?」
「ず、ずるい?」
「せや、すずはんがいない時にこんな事して…散々他の男を好きってゆーてた女を…」
くないは目をぎゅっと瞑ると少し顔を伏せて言葉を続ける。
「綺麗とか、可愛いとか…思てくれる?」
くないはどこか震える声で行人にそう聞いた。
行人は先ほどから顔を赤くしていたが、さらに顔を赤くさせてそれに答える。
「き、綺麗だし、可愛いと思いますよ。それにけじめをつけたのならいいじゃないですか」
行人はくないになるべく優しい声でそう告げる。
「あと、すずがいない時にここに来る事がずるいなんて言ったら、この島はずるい人でいっぱいになっちゃいますよ」
行人は明後日の方向を向きながら、照れくさそうに頬をかく。
くないはゆっくり顔を上げて潤んだ瞳で行人を見つめる。
「行人…はん…」
「え?うわっ!」
くないは行人の胸に飛び込むと、そのまま抱きつきながら彼を押し倒した。
「くない…さん?」
「な、行人はん…なでなで、してくれへんやろか?」
くないは行人の胸に顔を埋めたまま行人に言う。
「なでなで?」

行人が聞き返すと、くないは行人を抱きしめる力を強くして首を縦に振る。
行人は右手をくないの頭に乗せると、彼女の頭を撫でる。
「こ、これでいいですか?」
「うん…温かいな…しのぶがして欲しがんのも分かる…」
するとくないは顔を上げるとそのまま行人に顔を近づけていく。
「行人はん…」
「くないさ…む…」
くないは目を瞑り、頬を染めながら行人と唇を重ねた。
少しの間二人は唇を重ねるだけだったが、やがてくないは行人の口内に舌を入れようと彼の唇を舌でつつく。
行人は唇を開き、くないの舌を迎えると自分の舌とそれを絡ませ始める。
「ん、むぅ…ちゅ…」
「はっ、ん…」
二人は次第に激しく舌を絡ませ、その口からは唾液がこぼれる。
しばらくして二人は唇を離すと、二人の間に銀色の糸が引かれる。
くないは目を開けるとトロンとした瞳で行人を見つめる。
「行人は…ひゃっ!?」
行人はくないを掴んで転がり、今度はくないの上に行人が覆いかぶさる形になる。
行人も頬を染めてじっとくないの事を見つめる。
「くないさん、僕…」
「…うん、ええよ」
くないの返事を聞くと、行人は彼女の着物をはだけさせる。

行人は露わになったくないの胸に触れた。
そして行人の手が胸を揉み始めると、くないは口から熱の篭った吐息を出す。
「んぅ、あ…」
胸を揉んでいく内に行人の掌に乳首が硬く尖っていく感触が伝わってくる。
行人は一旦胸から手を離すと、その硬く尖ったものを指できゅっと摘む。
「ひゃぅっ!?」
くないは突然に刺激に身を悶えさせ、目をぎゅっと瞑る。
行人はそれに構わず、片方の乳首に吸いついた。
「んんっ!はっ、んぅぅ…」
行人は舌で転がしたり、甘噛みをして乳首を刺激する。
くないは乳首を弄られる度に切なそうに息を荒げていく。
行人はそんなくないを見ると、一旦乳首から口を離した。
「やっぱり、くないさんは綺麗で…可愛いですよ」
行人はそう言うと同時に左手で乳首を再びきゅっと摘む。
「んぁぁっ!行人…はん…」
くないは息を荒げ、潤ませた瞳で行人の方を見る。
行人はそんなくないの顔を見たまま右手を彼女の下腹部に持っていく。
そして着物をめくり、行人は下着の上からくないの大事な所に触れる。
行人の右手にしっとりと湿った布の感触が伝わる。
「んぅぅっ、行人、はん…」

くないは内股になり、足をすり寄せる。
行人の右手はくないの太股に挟まれてしまうが、行人は指を動かしてくないのそこを刺激していく。
そして同時に先ほどと同じように行人は乳首の方も攻め続ける。
「はっ、うぅっ…んんっ!」
くないは体をくねらせながら次々に送られていく刺激に耐える。
刺激されていく内にくないの蜜壷からは愛液が溢れ、下着と行人の手を濡らしていく。
やがて行人が指を動かす度に秘所からクチュクチュと淫らな水音が響いてきた。
するとくないは行人の服をぎゅっと掴む。
「行人…はん…うち、そろそろ…」
くないが切なそうにそう言うと、行人は攻めるのをやめて上体を起こす。
そしてくないの下着を掴み、そのままそれを脱がした。
くないのそこは十分潤っており、行人はズボンと下着を脱ぎ、自身をくないの秘所に当てた。
「くないさん、行くよ」
「…うん」
行人は静かにくないの中に自身を入れていく。
「ん、くぅぅ…」
くないは目をぎゅっと閉じ、何かに耐えるように顔を歪める。
行人は自身をくないの奥まで入れると、くないに話しかける。
「くないさん、大丈夫ですか?」
「うん、うちなら、大丈夫やから…」

くないは額に汗を浮かべながら笑顔を作って行人にそれを向ける。
「…分かりました、じゃあゆっくり動いていきます」
行人はそう言うとゆっくりと腰を動かす。
「くぅぅ…」
くないは再び目をぎゅっと瞑り、破瓜の痛みに耐える。
すると行人はくないの乳首に再び吸いついた。
「ん、はっ…」
行人は乳首を刺激しながら腰を動かす速度を速めていく。
それに比例してくないの吐息にまた甘いものが混ざり始める。
「ひぁぁぁっ!んんっ!」
やがてくないも腰を動かし始め、二人の動きは激しくなっていく。
くないは髪を振り乱し、行人のものをきゅうきゅうと締めつける。
「行人はんっ、うち、もうっ!」
「くっ、うっ、くない…さんっ!」
「んんっ!ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
くないは限界を迎えたのか背を仰け反らせる。
行人もそれと同時にくないの中に欲望を放出する。
そして二人はそのままの状態で脱力していった。
(行人…はんの…温かい…)
くないは自分の上に倒れた行人に手を回すと、そっと彼を抱きしめた。

すずの家からの帰り道、くないは頬に手を当ててため息をつく。
「はぁ、まさかもうしのぶとやっとるとは…」
くないは行為の後、行人が誰としたのかと言う事を行人自身から聞かされた。
くないにとってはそんなに強い衝撃ではなかったが、やはりそれなりにショックを受けた。
(お見合い、か…)
くないは以前自分の母親が言っていた事を思いだす。
「もったいない事したな〜…まぁ、あの時は仕方ないか…それに…」
くないはお腹に手を当てると幸せそうに微笑み、頭の中に行人を浮かべた。
「…ふふふ♪」
くないは顔をにやけさせ、家に着くと玄関の戸を開いて中に入った。
「ん、わわっ!」
くないは足払いに躓いてそのまま前に転んだ。
「まったく、何しとるんや」
「お、おかん?」
くないが見上げるといつの間にかそこにはこころが立っていた。
「学問ばっかやっとるから鈍っとるんとちゃうか?」
「…おかん」
「ん?」
「跡継ぎやけど…少し期待してもええで」
くないは微笑みながらこころにそう言った。